交響曲第8番ハ短調
カール・シューリヒト指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
63/12/07
Altus ALT-085

 スタジオ録音(12/09〜12)直前の演奏会なのでわざわざ入手する価値なしと考え、ずーっと無視してきた当盤だが、Altusレーベルの叩き売りセール(1枚でなく1点1050円、2枚組でさえも!)時にとうとう買ってしまった。まあ奇数楽章のトラックタイム差(IMG盤より第1楽章が1分半以上短く、逆に第3楽章50秒ほど長い)も少しは気になっていたのだが・・・・
 で聴いてみたが、案の定というか第1楽章の凄まじいテンポいじりに早々と辟易してしまった。こういうスタイルのブルックナーでも「有機的」とか何とか言い繕って擁護しようとする人達が少なからず存在することを私は知っている。9番は言語道断としても8番はある程度なら揺さぶりにも耐えられる曲だということも理解しているつもりだ。だが、当盤の乱暴狼藉には「もはやテロ行為に等しいではないか」と非難声明を出したくもなってくる。冒頭からスタスタ流しておいて3分19秒からノロノロ。と思わせて突如走り出す。6分40秒過ぎもブルックナー・リズムを破壊しながらクライマックスに突き進んでしまう。何でこういうのが我慢できるのか? 私はシューリヒトの支持者に本気で問うてみたい。
 ところで当盤のメリハリの付け方がスタジオ盤よりずっと大胆なのは、生演奏ゆえ気合いが入っていただけでなく、客の前でちょっとエエカッコしたろかという色気ゆえではないかと私は想像するのだが、そうなるとシューリヒトは2年前(スイス・ロマンド管との改訂版による4番演奏やVPOとの9番スタジオ録音時)の「不良老人時代」より多少おとなしくなったとはいえ、今流行の(というより既に死後化進行中?)「チョイ悪おやじ」的なところはまだまだ残していたということだろう。ところがどっこい。そういうのを堪能するには録音がまるで見合ってない。なにせ例の極悪コンビ(クラウス&アイヒンガー)が手がけた「パサパサ音質」なのだから。アダージョ終盤で聴衆の咳を確認するまで私は本当にライヴなのかという疑いを抱いていたほどだ。HMV通販のユーザーレビューにあった「生演奏ならではの独特の緊張感や気迫にも圧倒される」「黄金のホールに響き渡る黄金の響き!」というコメントには首を傾げるしかない。この音質はむしろ指揮者が「枯れおやじ」(こっちはまだ賞味期限内?)の境地に入っていた2年後の3番VPO盤にこそ相応しいものではないか。(あちらは「歪みが2088倍凄まじい」マスタリングのガヤガヤ感が災いしている。)このミスマッチは実に残念である。

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