交響曲第8番ハ短調
カール・シューリヒト指揮北ドイツ放送交響楽団
55/10/24
LIVING STAGE LS 4035173
(ケース裏には1961年録音とあるが、OriginalsやUraniaレーベルから発売されている上記年月日の演奏とトラックタイムがほとんど同じであるので、当盤の音源もそれらと同一であると判断した。)

 当盤のトータルタイムは79分台! 8年後のVPO盤より8分も長い。それ以上に驚かされるのが当盤ではハース版を使用していること(VPO盤は3楽章でサイテーカット、4楽章でもズサンカットを実施)である。「これは本当にシューリヒトの演奏なのだろうか?」と首を捻った。多分そうなのだろうが、それにしても食えんオッサンだ。ところが、当盤にはもっと仰天させられることがある。それは逆に当盤だけで聴かれるカットである。終楽章も土壇場の19分54秒でいきなりトンデモないところにワープしてしまうのだ。最初は音飛びしたのかと思ったが、ネット上で調べてみたら708〜716小節がバッサリ切られているらしい。こんな冗談みたいなカットは初めて聴いたが(他に例なし)、それまでの厳粛な雰囲気が完全にぶち壊しであり、「いくら何でもこれは許せない」と憤慨した。しかし、これは指揮者の判断によるカットではなく欠落らしい。これもどこかネット上で読んだが、正式なライセンスを持たない(海賊?)レーベルが、こういった歴史的音源にテープカットを施すことにより、いわば意図的に「傷物」にしてからリリースしたケースが過去にもあったという話である。わざと底面に切り込みを入れて「町人用」として売られていた萩焼と同じようなものかもしれない。が、聴かされる側にとっては非常に迷惑だ。焼物の底なら実用上のデメリットはほとんどないが、こちらは鑑賞に少なからず支障が出ているのだから。そこを聴くと脱力するので再生する気が失せてしまった。が、後に別のディスクから欠落部分を持ってきて繋いだので何とか聴けるようになった。ちなみに、編集には特別な音楽用アプリケーションを使ったわけではなく、Mac OS 8.1の頃から長いこと使っているムービープレーヤ(J1-2.5.1)で切り貼りしただけである。(不注意で傷を付けたりして音飛びするようになってしまったディスクに対しても、この技術はもちろん適用可能である。ちなみに、後のOSに標準装備されているQuickTime Playerはスムーズな早送り&早戻しができないなど機能がかなり制限されており、しかも一度に複数のファイルを開くことができないので、編集用としては全くの役立たずソフトである。)なお、挿入する断片については何度か試行錯誤を繰り返したが、結局はシューリヒトのVPO盤から採取した。そちらはステレオでテンポも若干速いため、どうしても不自然な感じが拭えないが、モノラル音源でテンポも音量レベルもほぼ同じというものは見つからなかった。(コンヴィチュニー盤やフルトヴェングラーVPO盤など、いずれも「帯に短し襷に長し」であった。)何か良いものをご存知なら教えていただきたい。
 第1楽章は17分近くにも及び、VPO盤よりも1分20秒長くなっている。しかし、大胆にテンポを変えるというスタイルは変わらない。両盤の時間差は主に遅い部分で現れている。つまり、テンポのコントラストは当盤の方がハッキリしており、スケール感や劇性は上回っているように聴こえる。第2楽章のトラックタイムにはほとんど違いがないが、両盤でもっとも時間差があったのは次のアダージョで、何と5分以上ある。例の209〜218小節カットの採否にもよるが、これは尋常ではない。そして、このアダージョが実に見事。シューリヒトのブルックナーの全楽章中でも屈指の出来だと思う。やはり「こだわり派」ゆえか部分的には基本テンポから外れることはあるが、あくまで折り目正しく演奏し、終わったらすぐ復帰するので不快にならない。クライマックスに向かうところもアホみたいに早足にしない。2度目のシンバルが鳴ってから(21分44秒〜)終わるまでは、強弱の付け方といい間の取り方といい本当に素晴らしい。7番のページでは「持久力がない」などと書いたが、この楽章を聴いた後ではそれを撤回しなければならない。ここでもう一つ強調したいのはNDRの演奏である。非常に上手い。(あるいはVPOだったらここまでキチッキチッとやらず、歌うような演奏に興醒めしてしまったかもしれない。)やはり、209〜218小節を聴くと「あって良かった」とつくづく思う。終楽章は速めの基本テンポであるが、ここもVPO盤より時間をかけており、劇性やスケール感とともに完成度でも上回っている。また、ノヴァーク版のアホカットを採用していないのは評価できる。彼がなにゆえに8年後にはダメ版の解釈を多用したのか理解に苦しむ。

追記
 2005年1月に購入したSDR盤(1954年10月)は、やはり当盤の1年前の演奏であるためか上で触れた仰天カットの前後部分のテンポもかなり近いと感じられたため、これをパッチとして新たに修復を試みた。ただし音量レベルとピッチが少々低く、前者こそSound Effects(0.9.2)によっていくらでも上げ下げできるものの、オケの違いに由来するであろう後者については、微妙なピッチの変更ができないこのアプリではいかんともしがたい。(却って半音ぐらい違う方が何とかなってしまったりする。)そのため繋ぎ目でピッチが一度下がってまた上がるのだが、まあこの位は仕方がないだろう。

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