交響曲第7番ホ長調
カール・シューリヒト指揮北ドイツ放送交響楽団
54/10/04
Tahra TAH 552

 当盤のリリース(初出)情報は「犬」サイトから得ていたが、その時はスルーすることに決めた。録音時期がSDR盤と大して隔たっていなかったし(1年7ヶ月ほど)、それ以上にユーザーレビュー中の「いまいち」という評価、および「オケの水準が低く、シューリヒトのブル7として心酔できないのが残念。このレベルでシューリヒト自身満足していたのだろうか?」というコメントに引いたからである。(その前後にもミスを指摘した投稿が寄せられている。)が、発売から2年を過ぎた今年(2007年)、ヤフーオークションに安く出ていたので何気なく入札したら落ちた。(「どうしても」という品ではなかったものの少し上乗せしておいた。結局それがモノを言った。)とはいえ、既所有の2種にはかなり満足していたこともあり、それらを上回るような超名演を望むのは無理だろうと思っていた。何はともあれ聴いてみた。
 録音は予想していたよりは良かったが、ジリパチノイズが耳に付き、ハーグ・フィル盤(64年ステレオ)は言うに及ばずSDR盤(53年モノラル)よりも明らかに劣る。が、第1楽章のトラックタイムは3種ともほぼ同じ。(20分18秒±2秒の範囲内に収まっている。)どことなくアッサリした感じもソックリ。4分25秒から小ピークまで徐々に加速するが、今更この「部分こだわり型」指揮者に文句を言っても始まらない。次のチェックポイントである「パーパカパッパカパッパカパー・・・・」(当盤では6分04秒〜)は抑制気味、つまり前年録音とではなく10年後のそれと同様であった。(ただし、弱音ラッパと後方支援ホルンの音量バランスが下手に取れてしまっているため、ハーグ盤より可笑しさが減退しているのは惜しい。)この辺り、その日の気分次第でコロコロ解釈を変える「思い付き型」指揮者の片鱗も窺える。3種中で当盤が最も枯れていると聞こえるのは痩せ細り音質のせいもあろうが、実際のところ同楽章の締め方も端正そのものである。
 当盤が他2種と最も異なっているのがアダージョである。SDR盤がほぼ19分、ハーグ盤が18分半なのに対し、当盤では21分以上かけている。(特に最終部分が遅く感じたので、短調に復帰しワグナーチューバが再登場するところから楽章終わりまでの時間を比較してみたが、4分弱の当盤は他盤より30秒ほど長いだけだった。つまり遅めの基本テンポを採ったと考えて差し支えない。)にもかかわらず全然ネットリ演奏とは聞こえず、相変わらず枯れまっくている。何ともユニークな芸風である。ただし、これならばクライマックス(前年と同じくティンパニのみ使用)は完全に打楽器なしの方が良かったのではないか。
 スケルツォは例によって速め。ただし、当盤より少し遅かったハーグ盤よりも印象は劣る。冴えない録音ゆえこれは仕方ないとは思うが、それにしても解釈がまとも過ぎて物足りない。(その点、特にハーグ盤の終結部分はまさに壮絶である。私はあそこを聴くとテレビ朝日が毎年放映している「小学生クラス対抗30人31脚」でのゴールシーン、つまり全力疾走のまま集団がクッションに激突する様をいつも思い浮かべてしまう。ただし、それは絶妙な塩梅としかいいようのない残響付加のお陰でもある。両端楽章の終わりも同様だったが、とにかく見事な細工だと思う。)
 先述したオケの技量不足(特にブラス)であるが、私にとっては十分許容範囲であった。確かに響きがショボいと聞こえることも時にあったが、指揮者が当盤で採用した飄々スタイルにはこの位で丁度良いという気もする。余分な力が一切入っていないため、とりわけ終楽章の曲想とは抜群の相性を示している。さすがに6分06秒以降のヘタレ金管合奏による不協和音には笑わせてもらったが・・・・これじゃまるでモーツァルトの「音楽の冗談」(第2楽章)だよ。
 最後にフィルアップされたシューリヒトのインタビューについて。Tahraが発売するCDでは、他にフルトヴェングラーのベートーヴェン(「ウラニアのエロイカ」や「ルツェルンの第九」など)でも指揮者の肉声を収めているが、私にとっては単に邪魔である。とはいえ、質問者に続けて聞こえてきたのが低くドスの利いた声だったのは面白かった。私はソフトな声で穏やかに話す人物を勝手に想像していたのだ。どことなく麻生太郎と似ているような気する。例の悪代官役が似合いそうな風貌(失礼)の政治家である。(その点ではハマコー氏の方が一枚も二枚も上だが、明治時代に建てられた小学校校舎の解体騒動で全国に顔を知らしめた滋賀県某郡某町の元町長ならば互角の勝負を挑めると思う。)そういえば他盤ページにて「二つの顔を持つ男」という浅岡弘和の見解を紹介したが、ならば一見「裏の顔」のように思える「ギャングのボス」こそが実はシューリヒトの真の姿なのかもしれない。(一応フォロー:もちろん外見のみについて語っているだけであり、中身とは直接関係はない。)

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