交響曲第5番変ロ長調
カール・シューリヒト指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
63/02/24(?)
LIVING STAGE LS 4035173

 SDR盤ページにも書いたが、浅岡弘和はVPO150周年記念のDG盤について「オーケストラがウィーン・フィルだし、モノラルながら録音もかなり良いので『第8』『第9』に次ぐ彼の代表盤となるだろう」と評している。かつては入手困難な稀少品だったが、2004年に同音源がAltusからリリースされたため値崩れを起こしている。再発が待ちきれなかった私は、既にSDR盤を所有していたにもかかわらず当LIVING STAGE盤(NDRとの8番が併録された2枚組)を買ってしまった。(入手経路はヤフオク、あるいはアマゾンのマーケットプレイス、それとも楽天フリマだったか忘れてしまった。)どこかの掲示板で当盤収録の演奏がDG盤と同一らしいという書き込みを読んだために入手に踏み切ったのであるが、それが本当なのかは現在も不明である。とはいえ、弦の刻みやオケ全体の響きから判断するに、VPOの演奏であることはまず間違いない。
 8番VPO番ページ冒頭に書いたのとは対照的に、5番については私は2枚組の必然性を感じない。実際に70分を切る演奏でも気に入ったものは少なくない。私が所有するチェリビダッケの全ての5番が2枚組だが、勝手なもので「そこまで遅くやらんでも」と言いたくなる。何せ超名演のヴァントBPO盤が77分台である。ショルティ盤が1枚物として再発されたし、カラヤンやアイヒホルンも何とかギリギリで収まってしまいそうである。チェリ以外で絶対無理なのは他にヨッフム(ただし最晩年の86年盤)とシュタイン(←未だに信じられん)他ごく限られた指揮者の演奏のみである。とにかく、5番には8番ほど時間をかけなくとも良い(下手に引き延ばすと味が薄くなる)と私は考えている。ところが、8番はわずか71分台の尻軽演奏を行っていたシューリヒトが、同じオケと共演した5番では一転してどこへ出しても恥ずかしくないような堂々とした演奏を繰り広げているのは大いに注目に値する。
 録音年月日が(おそらく)4ヶ月ほどしか違わないこともあって、演奏の特徴はSDR盤と基本的に同じである。大きく異なるのは指揮者の解釈よりも当然ながらオケの音色と響きである。(ちなみに、当盤のヒスは少なくモノラルながら音の拡がり感も多少はある。ただし、音は少々痩せている感じである。もしこれがDG盤のコピーだとしたら、まさにアイヒンガー&クラウスコンビによるマスタリングの特徴そのものなので納得がいく。Altus盤は音質向上が図られたということだが、もちろん未確認である。)例えば第1楽章2分26秒からは音の強弱によって波のうねりのような効果を出している。SDR盤があくまで剛球勝負なのに対し、当盤ではカットボールのように直球系ながら微妙に変化する曲球を使っているといった感じか。先述したように弦の音色は特徴的で、艶があってとても美しい。第134楽章は両盤それぞれに良さがあるが、第2楽章はそのお陰で当盤の方が断然良い。前半2楽章は当盤の方が遅いが、スケルツォはそれがさらに顕著になった。9分と12分ではエライ違いのであるため、もしやSDR盤ではどこかでカットを、と思って聴き直したが、そういう事実は確認されなかった。結局のところ、長調部分でテンポを落とす程度の違いが原因なのだが、何せ主部が強烈なため、激しくてせわしないという印象は変わらない。終楽章は逆に当盤の方が速くなっている(正味の演奏時間は24分34秒)。ここでは弦のみならず木管も金管も美しい。結構頻繁に聴こえる客席の咳だけが美しくない。コーダは力強さ十分であるが、痩せた音がやはり惜しい。また、強奏部分で縦の線がちょっと合わないところは減点対象である。

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