交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
カール・シューリヒト指揮シュトゥットガルト放送交響楽団
55/04/05
archiphon ARCH-2.4 CD

 トータル69分30秒にも及ぶ演奏である。VPOとの8番(約71分)や 9番(約56分)では快速演奏を行った指揮者だけに、実際に聴いてみるまでは信じられなかった。とはいえ、遅いのは偶数楽章だけである。第1楽章は快速テンポでハッキリ言って大した演奏ではない、といったら怒られてしまうが、拍子抜けするほど真っ当な演奏であった。それに続くものとしては第2楽章は少々ノロく聴こえてしまうのが惜しいが、出来自体は決して悪くない。第3楽章は789番のように暴れていないのが意外であったが、出来映えは申し分なし。そして第4楽章であるが、トラックタイム23分台というのはそうそうあるものではない。冒頭から堂々としたテンポで進む。が、フレージングに歯切れの良さがあるため、ねちっこくならない。7番と同じくカラッとした感じである。 音量の大きいところも暴れたりしない。89番EMI盤にて激しい終楽章を繰り広げていた指揮者とはまるで別人である。強いてこの人に「枯淡」のレッテルを貼るとしたら、こういう演奏に対してではないだろうか。何れにしても、60年代の演奏よりもおとなしいというのが面白い。コーダのスケールの大きさには正直脱帽した。チェリの反則スレスレ演奏とは比較できないが、似たようなテンポなら2003年に出たエッシェンバッハ&パリ管盤がある。けれども、そちらは徒にテンポを落としただけのようにも聴こえなくはなかったのに対し、当盤では間延びしたところが全くない。圧勝である。
 先述したように、全体(4つの楽章)のバランスという点ではもう一つだが、個々の楽章としては非常に丁寧な音楽作りをしているとして評価できる。チェリビダッケに鍛えられる前からこのオケは相当な実力を備えていたんだなあ、と思った。
 シューリヒトの4番はChaconneというレーベルからも出ているようだが、当盤とは異なり改訂版使用でトータル55分という相当な快速演奏を行っているらしい。私はネットオークションで出品されているのを見たことがあるが、CDケース裏にはオーケストラ名が記載されていなかった。浅岡弘和は、使用版だけでなく演奏もまるで違う両盤に関して「どちらかが贋物なのだろうか?」と疑問を呈していた。が、ネット上で調べてみると、Chaconne盤はスイス・ロマンド管によるもので、演奏記録も残っていることから確かにシューリヒトによる真正演奏ということらしい。もっとも、61年録音なのにモノラル、私がさほど好きな指揮者でもない、改訂版はもうたくさん(クナとフルヴェンとマタチッチで満腹)という3つの理由からたぶんこのCDを入手することはあるまい。(追記:予想大外れ。)なお、同じ曲を原典版と改訂版で演奏した指揮者は彼に限らないが、後の方が改訂版というのはマタチッチと逆である。金子建志が「ブルックナーの交響曲」で言及したように、一度捨てた改訂版のアイデアを最晩年に再度採り入れたという例は珍しくないようだが。再度浅岡だが、若い頃は「ギャングの親分のような恐ろしげな貌で、晩年の聖者のごとき風貌とは似ても似つかない」、あるいはハイドンの「ロンドン」を聴いて「イメージがガラリと変わってしまった」などと彼が書いているように、シューリヒトも「2つの顔を持つ指揮者」の1人なのかもしれない。

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