交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」
カール・シューリヒト指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
65/12/02〜06
EMI TOCE-3404

 ブルックナー総合サイトの管理者は、この演奏を「ちょっと『あっさり』しすぎていて、残念ながらブルックナーの良さが伝わってこない」と評している。また、別のクラシック総合サイトでは一言「枯れている!」と書かれているだけである。けれども、9番VPO盤ページに書いたごとく、マスタリングの違いが生み出す音質差の影響が少なくないため、「アッサリ」 や「枯淡」はあてにはならないと思う。後者が聴いたCDの番号は不明だが、前者はTOCE-8469で当盤とは異なっている。(どうやら、それ以前の品らしい。)一方、当盤はこれまた、であるがHS-2088マスタリング盤である。(最近の某掲示板では「音質の破壊神こと○kazaki氏によるマスタリング盤」の方が通りが良いかもしれない。)けれども、この3番では歪みは2088倍も酷くない。せいぜい3倍程度である(by 鈴木淳史)。あるいは許が89番について書いていたような金管による大音量で鳴り響く箇所が少ないせいかもしれないが(9番VPO盤ページ参照)、このマスタリングの成功例といえると思う。とにかく、当盤がシューリヒトの残した最後の録音であるにもかかわらず、私は「瑞々しい」「若々しい」という印象を受けた。これから(残念ながら全てモノラルだが)シューリヒトのライヴ録音盤の評に取りかかることになっているが、このように彼はまったくもって一筋縄でいかない指揮者である。加齢とともに枯れていったとか原典版に回帰したというような単純化を決して許さないのだ。ちなみに、9番VPO盤のページで紹介した掲示板にはこんなコメントがあった。この投稿者も指揮者同様に冷静である。

 まぁ、老齢=枯淡、というのは、ちょっと当てはまらないかも
 しれないですね。ただ、スタジオ録音のときのシューリヒトは
 冷静に、というか、実演での迫力とは違う世界を作っているよ
 うに思います。

 前半楽章は比較的速めのテンポで進む。が、「いらち」と言いたくなるほどの早足ではないし、快速演奏に時にありがちな、弦のちょこまかした動きが気に障るということもない。何といっても基本テンポからの逸脱がほとんどないのがありがたい。細かいところに執心するあまり曲全体に目が行き届かないということはなく、「木も見て森も見る」という演奏である。4つの楽章の時間配分も申し分なし。颯爽とした感じの124楽章に対し、3楽章だけは飄々とした感じで少々異質にも感じるが、足取りは常に軽く「若々しさ」は最後まで変わらない。ティンパニが抑制気味なので弦の艶のある弦の音が前に出てくる。あるいはそのためかもしれない。それから、アンサンブルが結構キッチリしているのもすばらしい。といってもギチギチでもない。「ええ塩梅」である。そのため、ヴァント盤から時に感じてしまうような息苦しさもない。70年録音のベーム盤では「緩い」「甘い」と聞こえてしまう所が少なくないのだが・・・・VPOはその5年間のうちに急速に劣化してしまったのだろうか?(同オケによるブルックナーとしてその間に録音されたものといえば、私はクレンペラーによる5番ライヴ盤しか持っていないが、指揮者自身が劣化過程にあるため参考にはできないだろう。)

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