交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
アルフレッド・ショルツ指揮南ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団
録音年月日不明
DeAGOSTINI CC-043

 ブックオフの価格設定のいい加減さは既に皆の知るところとなっているようだが、地元でも状況は全く同じである。本は中身よりも古いか新しいかだけで値踏みされる。かつて岩波文庫によるイプセンの戯曲「野鴨」「幽霊」のリクエスト復刊までが定価の半額で売られているのを見て呆れたことがある。絶版されて久しく、他でも入手はほとんど不可能だったはずだから、まともな古本屋なら最低でも定価以上では売るだろう。私は既に持っていたから買わなかったが、次に行った時には消え失せていた。ちなみに、私はトルストイ全作品蒐集計画の一環としての「コザック」および「闇の力」(やはり岩波)を共にたしか1300円ほど払って入手したが、文庫でも希少本なら2000円以上するのが相場だという話だから高かったとは全然思っていない。そんな訳で、あの店は見る目のある人にとっては間違いなく「宝の山」である。先日宇野功芳「フルトヴェングラーの全名演名盤」(講談社+α文庫)を定価の半額でゲットできたのが嬉しかった。中古市場では1000円を下らない品だから。CDでも似たり寄ったり。ナクソスが950円とか1000円で堂々と売られている一方で、大手レーベルのレギュラー盤の2枚組までが同じ値段だったりする。直近の掘り出し物はワルター&NYPの「復活」の初発盤(56DC-141/2)、つまり音質良好とされる「マックルーア盤」である。
 さて、デタラメ価格の最たるものとしてDeAGOSTINIによる「The Classic Collection」シリーズを挙げない訳にはいかないだろう。その全作品を掲載した「バッタもんCD付き雑誌」というページによると、1994年9月27日から2001年9月25日の180号で完結するまで2週間に1度出ていたということだが、私は創刊号のチャイコフスキー(ピアノ協奏曲第1番、「くるみ割り人形」および「白鳥の湖」の組曲)だけ買った。理由は安価(税込290円)だったからに過ぎない。が、聞いてみたら演奏はまさに「安かろう悪かろう」で、既所有のショルティ&シフ盤やカラヤン盤とは比べものにならぬほど凡庸な出来。サッサと人に譲ってしまった。以降も同じ値段なら時々手を出したかもしれないが、いきなり3倍以上(910円)に値上げするという暴挙に出られてはどうしようもなかった。(同朋舎の美術シリーズも同じ理由で創刊号以降は敬遠し、結局中古を買い集めることになった。)
 そんな代物、しかも解説本なし(ブックレットにはトラックタイムと演奏者名のみ)だというのに財布から夏目さん(今は野口さん)を出そうとするようなアホがどこにおるかいな、と長らく思っていたのだが、この前クラシックコーナーに足を運んでみたら全部100円(税別)のシールが貼ってあった。ようやく店員も自分達の愚かさに気が付いたらしい。そうなれば話は別だ。ということで当盤をレジに持って行ったという次第である。(他に59番も出たようだが置いてなかった。)
 ところで、いい加減なのはブックオフだけではない。制作したDeAGOSTINIも同様である。幽霊指揮者や別人28号、あるいは架空団体による正体不明の演奏が相当数混じっているそうだ。実は当盤の「アルベルト・リッツッオ」がまさにそれで、実際には上記の通りアルフレッド・ショルツの指揮らしい(オケは合ってる模様)。こういう場合はBerky氏のサイトに頼るに限る。彼の "pseudonyms" ページによると、「アルフレッド・ショルツは興味深いキャラクターである。指揮者兼プロデューサーの彼は自分が振った南ドイツ・フィルの音源をリリースする際に架空指揮者、そして多くの場合、実際にはブルックナーを指揮した記録がないにもかかわらずハンス・スワロフスキーの名を騙ることが多かった」などとある。スワロフスキーはショルツの指揮の先生だし、時には弟子の1人であるハンス・ゾナテッリの名前も使っていたという話だから、あるいは師や同僚に対する親愛の情からこういうことを思い付いたのだろうか? だとしたら義理堅い人だ。それはさておき、4番のディスコグラフィによると当盤と同じ音源が何とKreutzer、Lizzio、Swarowsky、Zanotelli、Zsoltayという5通りの名義でリリースされているというから凄い。(ちなみに先述の「バッタもん」ページには赤字で「ミラン・ホルヴァート指揮オーストリア放送交響楽団の録音と同じ」と記載されているが、そちらとはトラックタイムが少なからず違っているから別演奏である。ホルヴァート&オーストリア放送響の音源は彼のベルリン放送響、あるいはAdolphやZsoltay名義でも売られている。このうち「アドルフ&フィルハーモニア・スラヴォニカ」による演奏を収録した品として上述のアルベルト・リッツッオ&同オケによる2番とセットになったPilzの2枚組(44 9061-2)を何度か目にしている。ショルツの行為については廉価盤専門の批評サイトなど複数箇所で非難の的となっているものの、演奏そのものは結構高く評価されており、ホルヴァートの4番ということなら少しは聴いてみたい気持ちも湧いてくるが、何せPoint Classics盤は音質劣悪という話だし、どうせ他もコピーで五十歩百歩だろうから買うとしても叩き売り(せいぜい200円)されてからだろう。なお、このシリーズの5番は少なくともショルツ&南ドイツ・フィルの真正演奏であるのは確かなようだが、ここでも彼は分身の述(Lizzio、Swarowsky、WeissおよびZsoltay)を駆使しているらしい。ついでながら、9番は何とムラヴィンスキー&レニングラード・フィルの演奏である。異色ながら一部では評価が高い。録音の著作権は切れていないはずだが、そしてここだけ「まともな」音源を使用した理由がよく解らんが、共産党政権が倒れて以降しばらく経済的に落ち込んでいたロシアゆえに版権の買い取り価格が極端に安かったのかもしれない(ちゃんと許諾を取ったのであればの話)。
 それではディスク評に移る。まず録音はステレオとしてはかなり落ちる。分離はイマ二つぐらい。全奏になると決まって響きが混濁するが、リミッターを多用しているらしく実際はそうでないかもしれないのに金管が非力と聞こえるし、しばしば不自然さを感じてしまうのはそれ以上に痛い。第2楽章は他と比べて明らかに音量レベルが高いが、ホルンや木管のソロが金管の咆吼より大きいなんてあり得ない! ただし演奏はまずまず。「実体はバンベルク交響楽団のメンバーを主体とした録音用オケ」とのネット情報を得たが、合奏力はトップクラスとは行かぬまでもプロの水準は確保している。トータル63分で私的にはやや速く感じるが許容範囲。無茶なテンポいじりによる雰囲気ぶち壊しもしていない。第1楽章の第2主題提示でリズムをちょぴり崩して歌わせるなど、指揮者も時に茶目っ気を示している。少し前に採り上げたノイホルト盤やフランツ盤もそうだったが、決して凄腕揃いのオケでなくともそれなりに堪能できてしまう。改めて名曲だと思った。クラシック音楽、ましてやブルックナーに大して思い入れのない人が1枚だけ所有するというのなら、こういった個性のあまり強くない演奏の方が良いのかなとも思う。
 それにしてもショルツはオケの統率力もなかなかのものであるにもかかわらず、敢えて本名を伏せておくとは何とも奥床しい人だ。芸名を用いるにしてもイタリア人っぽい「アルベルト・リッツィオ」よりは「ヘルベルト・リヒター」あたりにしておけば、いかにもドイツ音楽に長けていそうな名前ゆえディスクの売り上げにも貢献したはずなのに。商売っ気もあんまり持ち合わせていないんだろうな。(あれ?)

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