交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
クルト・ザンデルリンク指揮バイエルン放送交響楽団
1996?
The Bells of Saint Florian AB-10

 「鐘」レーベルの3番に生じた疑いがこの4番にまで波及してくるのを避けることはできなかった。というのも、この演奏で印象に残った箇所のいくつかがヴァント&BPO盤ページに記したものと一致していたからである。(ヴァントがBRSOに客演して4番を演奏したことはなかったのだろうか? その音源がリリースされたら絶対に買いだが・・・・ところで、後述するように別指揮者の名を騙って売り捌かれようとしていたこの演奏が、さらに別の指揮者ではないかと私に疑われたのだから皮肉なものである。海賊版の宿命ではあるが、まさに因果応報である。)ただし、第1楽章のコーダを遅い別テンポに設定してはいないのが異なっているし、終楽章冒頭の力の溜め方(テンポの落とし方)や間の置き方も違うので、どうやらヴァントの演奏ではなさそうだと考えるようにはなっていた。そして、後述する正規盤発売の副産物ながら当盤をようやくにしてザンデルリンクの真正演奏として認めるに至った。
 目次ページに括弧書きで追記したように、2005年9月にリリースされたProfil正規盤(PH-05020)は、当初海賊盤(当「鐘」盤および「涙」盤)と同一演奏という触れ込みだったけれども、後に "This is NOT the same as the Bells of St Florian CD / En Larmes recording" という注釈が英語版ディスコグラフィサイトの "New Releases & Discoveries" というページに掲載された。(HMVサイトで正規盤を一部試聴したが、確かに当盤とは別演奏のようである。)それに伴い正規盤の演奏が1994年、既発海賊盤の演奏は1996年と書き改められた。これで従来「不明」とされてきた当盤の録音時期も一応は判明した訳である。一部に囁かれていた「1980年代」説は全くのデタラメであったということになる。酷い話だ。(ただし、「鐘」にしては異様なほど録音時期が新しいというのも気にはなる。もちろん完全には信用していない。)なお、当盤には同レーベルの3番ほどヒスノイズの混入はなく、そこそこ満足のいく音質である。だから、いくら「マスターからの初復刻」を謳っていてもProfil正規盤が同一音源使用なら敢えて買い直す必要なしと考えていたのは既に目次ページに記した通りである。
 改めて聴くと、これといった欠点のない模範的演奏だが、この程度なら捜せば他にもいくつか見つけられるだろうと思った。ただし、全曲を締め括る最後の1分ほどは特筆ものである。コーダに入ってしばらくはどうにもパッとしない。この曲のエンディングがこんなに地味ではアカンやんと思っていたら、最後の最後になって(20分40秒〜)一気に盛り上げる。そして土壇場の21分台に入ってからがさらに凄い。寄せては引くを繰り返す波のようなヴァイオリンのトレモロには思わず寒気がした。神秘的ということではチェリの反則ヴィオラ攻撃(ザンザンザンザンザンザン)に勝るとも劣らない。見事ノックアウトされてしまった。そういえば17分台の長大な第2楽章も素晴らしい。(よく考えたら、他楽章は結構似ているものの、この楽章のトラックタイムはヴァント&BPO盤とはかなり異なっている。)やはり終盤のピークまでを抑え気味にして最後に思いっきり盛り上げる。この構成力の見事さは、確かに3番(ただし「鐘」盤除く)あるいは7番のアダージョでも聞かれたザンデルリンクのそれである。この点で彼と肩を並べる指揮者は見当たらない。
 それにしても、ANFソフトといういかがわしいレーベルがこの演奏をカラヤン&ベルリン・フィルの演奏(79年6月2日のザルツブルクでのライヴ)と偽って売り物にしていたのはあまりにも嘆かわしい。どこを捜してもカラヤンあるいはBPOの要素など聞かれなかったからである。ウソを吐くならもうちょっと上手いやり方があるだろうに、とも言いたくなるし、もし誰かが金目当てにテープ持ち込んできたとしたら、それを試聴して看破できなかった制作者はボンクラもいいところである。そんなトホホレーベルが姿を消してしまったのも当然といえる。

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