交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」
クルト・ザンデルリンク指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
63/06
BERLIN Classics BC 2151-2

 ブックレットには "1889 version" としか書かれていないから、当盤の演奏が原典版(ノヴァーク3稿)なのか改訂版使用なのかは判らない。(英語版ディスコグラフィサイトによると、当盤のみシャルク改訂版で、それ以外はノヴァーク3稿らしい。私には全く区別が付かないが・・・・)いずれにしても、89年版でトータル64分というのは相当な遅さだ。しかしながら、トータルタイムでは当盤に匹敵するチェリビダッケ&MPOの正規盤ほどはノロく感じない。それは一様に遅いチェリ盤とは異なり、基本テンポは常識的な範囲で所々で豊かな表情づけを行っていることによる。その典型例が第1楽章中間部ピーク前の処理である。11分36秒でいったんスローダウンし、12分02秒から徐々にスピードを上げていく。ただし、そのまま尻軽テンポまで加速して興醒めになるようなことはなく、12分27秒のピーク以降もスケール感を維持しているのは流石である。他でも盛り上げるべきところはしっかり盛り上げているが、基本的に解釈は地味で、例えば「ドーシーラソ、ラーソーファミレ」のファンファーレは提示部(0分59秒〜)、再現部(16分32秒〜)とも実に素っ気ない。いや、さりげない。オケの渋めの音色(ティンパニと低弦が貢献)がザンデルリンクの芸風と見事にはまっていると思う。これが派手派手のシカゴ響だったらミスマッチになっていた可能性もある。ただし、再現部では17分30秒からのチェロによる対旋律が強調されていたことが印象的だったし、ティンパニの連打が収まって全休止に入った後の21分11秒からの弦のトレモロも結構耳に付いた。(とはいえ、どちらもヴァントのように執拗な弾き方はさせていない。)このように、並大抵の指揮者が埋没させてしまうようなところを際立たせるのが指揮者のこだわりであろうか? この楽章の終盤では金管を控え目に吹かせ、ようやくコーダに入ってから最強奏させる。これにより非常に息の長い盛り上がりを成し遂げているのは見事である。音量差によるメリハリの付け方の巧さではザンデルリンクの右に出る指揮者はいないかもしれない。
 第2楽章に17分半を費やすというのも89年版では他に例がない。(チェリをも凌駕しているし、ザンデルリンク最晩年のベルリン放送響盤もここまで長くはない。)それでも全く間延びしないのだから感嘆する以外ない。(最初はゆっくりでも途中から走り出してしまうような堪え性のない指揮者のいかに多いことか。)第1楽章とのバランス(時間配分)では圧倒的にチェリを上回っていると思う。音量のピークは12分36秒あるいは13分14秒のハ長調部分だが、指揮者は15分40秒に焦点を定めていたと私は考えている。そこに至るまでの繊細な表現には溜息が出るほどだし、それ以降のトレモロの美しさはには完全に脱帽である。スケルツォもタップリ時間をかけているが全体のバランスから見たら問題なし。15分半を要する終楽章も第1楽章同様細心の注意が払われている。そのため、9分58秒からさらに遅い別テンポになるが、それでも曲が終わるまで全く弛緩しないのは凄いとしか言いようがない。14分7秒でニ長調になってからの巨大さは、聴く者全てを圧倒させずにはおかない(はずである)。イケイケのマタチッチとは対照的であるが、スケールの大きさでは双璧をなすだろう。

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