交響曲第8番ハ短調
ゲンナジ・ロジェストヴェンスキー指揮ソヴィエト国立文化省交響楽団
84/04/08
YEDANG CLASSICS YCC-0047

 ロジェヴェンの8番には全集以外に別のライヴ音源が存在することは知っていたけれども、例の濃厚な響きや「安物ラッパ」に食傷していたため「もういい」という気分だった。ところがYahoo! オークションに3枚が立て続けに出品され、「何度聞いても恐ろしい演奏」「こちらの演奏の方が嘘っぽくないので好きです」というコメントに興味を覚えた。入札の気配がなかったので「もう少し下がってから」と思っていたところ、楽天フリマで1000円ちょっとだったのでアッサリ買ってしまった。
 同時購入したクナの8番VPO盤(LIVING STAGE)は、ピッチを速く設定して強引に1枚に収めていた。当盤も翌年のスタジオ録音とは異なり2枚には分かれていない。嫌な予感がしたけれどもピッチに異常はなかった。(当たり前か?)第2楽章を除いて当盤の方がテンポが速く、トラックタイムが短くなっているためだった。けれども、85年盤メロディア盤と聴き比べても解釈が大きく違うという印象は受けなかった。(よって、どちらでも構わないということになるかもしれないが、ディスク交換の煩わしさを考えたら当盤である。宇野の日本語解説書を読みたいという方はBMG国内盤が必須だが・・・・)向こうはトータル84分強でも響きがあまりに独特なため、「堂々たるスケール」では括れない異色演奏だったためかもしれない。当盤は時々即興的に早足になったりするが「おいおい、止めろ」と言いたくなるほど非道いことはしていない。となると、音質差によってもたらされる部分が多くを占めていそうである。
 オケが同じだから当然ながら両盤の音色に違いはない。ただし、ヘッドフォンで聴くと当盤はリミッターで調整していることが判る。これは大音響でも音が割れないで済む反面、修羅場での迫力が削がれるので痛し痒しである。とはいえ、96kHz/24bitによるマスタリングを施しているお陰か音はスッキリしていて聴きやすい。パートの分離もこちらの方が良さそうである。残響も適度であり、ティンパニ音が混濁しないために不気味さもあまり感じない。木管ソロの不自然な強調もない。上の「嘘っぽくない」はこのことを指しているのであろう。85年盤のページで採り上げたいくつかの重箱の隅的箇所も、当盤では意外とスンナリ聴けてしまう。スケルツォ主部の超絶技巧トレモロが例である。終楽章エンディングのブラスにもタコ風味は加わっていない。そのため、当盤の方がよりブルックナーらしいといえる。しかしながら、敢えてロジェヴェンのブルックナーを聴こうとする人が真っ当な演奏を期待するとは思えない。「変態」を愉しむのであればやはり85年盤であろう。上の「恐ろしい演奏」がピッタリなのもあちらで、当盤は中途半端な印象を受けてしまう。ただし終楽章6分03秒〜のティンパニ乱打は例外。何なんだ、あの「ボコンボコン」という気色の悪い響きは!!(たぶんリミッターのせい。)
 ところで当盤では終楽章再現部でシンバルが鳴る。ただし、その前の改訂版由来のティンパニは採用していない。翌年のスタジオ録音ではそれが全く逆なのだからよく解らない。もしかすると「打楽器を付加する/しない」「カットを採用する/しない」について考えられる全ての組み合わせ(2のべき乗通り)で演奏・録音したかったのだろうか? 浅岡弘和は「至れり尽くせりのブルックナーオタクとブルックナー学者専用全集」と茶化していたけれども、それを本当に作ろうとしていたりして?(まさか)

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