交響曲第5番変ロ長調
ハインツ・レーグナー指揮ベルリン放送交響楽団(東)
83/09〜84/01
BERLIN Classics 0030112BC

 トータル68分26秒で、(原典版による演奏としては)やはりあまり例のない快速テンポと言わざるを得ない。「8番と並んで堂々とした威容を誇る」などと評される曲だけに、当盤は異色の演奏ということになろう。と書いたところで、目次ページでも触れた「ハインツ・レーグナー ─ 絹のブルックナー」にて、許光俊が「ドイツ風の演奏流儀からすると、レーグナーは相当異質である」と述べているのを見つけてしまった。実は当盤については彼の手になる質量ともに非常に充実した批評が既に存在しているため、それに私がつけ加えることは思い付かなかった。とはいえ、ここで投げ出してしまっても何だかなぁなので、少しだけテキトーに書くとするか。
 「絹のブルックナー」では「一点一点丁寧に作られた工芸品のごとく、職人の手の痕跡が認められる」のような形容にも感心するが、許が紹介した「透かし彫り」という技法に興味を覚えた。彼は調味やカメラワークなど様々な例を挙げて説明していたが、要は楽器バランスの調整のことである。「大事な楽器は強調して前に出し、それほどでもない楽器は抑えめにして背景に追いやることで、音響は透明感を増し、聴衆には大事な部分が伝わりやすくなる」、そして「そうすることで迫力も増加する」という効果を発揮するのだ。「濁った響きで大きな音を出すより、透明な響きで大きな音を出すほうが、すべての音が聞こえるような気がする分、心理的に迫力が増す」と続いていたが、ここから私が触れたいのはティンパニである。
 レーグナー盤のティンパニの叩き方はケレン味タップリである。第1楽章2分13秒からの「ソードーレミーラ♭ーソー」のファンファーレをサポートするティンパニは、一度引っ込んで(音量を下げて)から2分30秒で派手に再登場する。ヴァントやカラヤンによるBPO盤がマスで押し潰すようであるのに対し、こちらは引いては返す大波のようである。剛直なBPO盤、伸縮自在な当盤ということになろうか。鳴り方はまるで違うがどちらも迫力という点では互角である。いや、「柔よく剛を制す」という言葉の通り、あるいは許が述べた「心理的迫力」では上回っているかもしれない。ただし、繰り返しになるが当盤の迫力は許が触れた透明な響きがあってこそ生まれるものである。もし響きが濁っていたら、ティンパニが弱音ながら鳴り続けていることが分からず、その効果は半減してしまう。レーグナーはよほどこのやり方が気に入っていたのだろう。この楽章14分20秒のクライマックス、そして両端楽章のラストでも用いている。あるいは(そちらのページで触れたように)ヨッフム&フランス国立管盤を参考にしたのだろうか? さて、その終楽章コーダでもレーグナーは意識してスケール感を出そうとはしていない。やはり、この曲が特に巨大であるとは考えておらず、他の曲と同様あくまで美しさの表出を心懸けたということである。その点でインバル盤と少し似ている気もするが、より徹底している分だけ美しさは当盤が上回っている。

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