交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
カール・リヒター指揮ベルリン放送交響楽団(西)
77/11/07
Altus ALT-068

 鈴木淳史は「こんな『名盤』は、いらない!」にてベーム&VPOによるモーツァルトの「レクイエム」を散々貶しまくった後、「それでもリヒターはバッハだけ聴いているつもりか」などと述べてからリヒター&ミュンヘン・バッハ管盤を推していた。その際、FMで一部だけ放送された「ロマンティック」の素晴らしさが忘れられないとも書いていた。(何せ本がもう手元にないので、あやふやな記憶のまま記している。)まさかそれで売れると踏んだ訳でもないだろうが(そして、当盤収録の演奏が鈴木の聴いたものと同一であるかも不明だが)、ALTUSレーベルは「世界初登場盤」という謳い文句とともに当盤を世に送り出し、不覚にも私はそれに手を出してしまったという次第である。いつもいつも鈴木をボロクソに書いているけれども、あそこまで褒めているのを読んだらやはり聴いてみたくなるのが人情というものだろう。(なんじゃそれ。)
 私はこの指揮者のディスクとしてバッハの四大宗教曲、カンタータ集3枚組(147番など有名どころを収録)、および140番&「マニフィカト」を持っている。(ちなみにヨハネとカンタータ集は85年6月に発売された「バッハCDエディション全8巻」の一部である。余談だが、その全集にはマタイはなぜか79年の再録音が採用され購買者から不満の声が上がっていた。歴史的名盤の声が高い58年録音のCD化は、86年11月にリリースされた69年来日公演ライヴ盤よりも後回しにされ、何と87年10月まで待たなければならなかったのである!)また、モツレクも「廃盤CDディスカウントフェア」で買った。それらの多くは禁欲的というか端正に徹した演奏だったから、この曲の表題に相応しい演奏が彼にできるのか半信半疑であった。というより、リヒターによるロマンティックな演奏など全く予想できなかったのである。しかしながら、「クリスマス・オラトリオ」が録音された65年辺りから彼は穏やかな芸風へとシフトしていったから、冷静に考えてみればむしろ当然の結果といえるのである。
 ということで、この演奏は最初からものすごく濃厚である。0分40秒過ぎのホルンによる「ドーファーファドー」が収まった後、低弦のザワザワが立ち上がってきたところで思わず身震いしてしまった。その直後の弦の刻みも執拗さを極めている。1分48秒でテンポを大きく落とす。これは浅岡弘和によると改訂版の解釈ということだが、金子建志による当盤解説にも「晩年のインタビューで、リヒターがフルトヴェングラーやクナッパーツブッシュといったドイツの巨匠達を尊敬していると述べた文章を読んだ記憶がある」とあったから、リヒターがそれを参考にしたとしても不思議はない。さらに数秒前で腰を落としてから2分08秒の堂々たる盛り上がりを迎える。チェリビダッケでもここまではやっていない。(というより、彼の表現はどちらかといえば淡泊である。)最初の3分を聴いただけで「お腹いっぱい」である。超スローテンポだが、残響にサポートされているためかスカスカ感が全くないのが嬉しい。
 その後も遅いところは徹底的にネットリ、それが終わるとそれなりにテンポを上げるという繰り返し。この曲の場合テンポいじりは(私的には)OKだから問題なし。終楽章序盤(転調するまで)に繰り返される大向こうには拍手を送りたくなる。当盤以上に「浪漫的」な演奏を私は思い付くことができない。ただし、致命的な破綻こそ免れているものの微妙に乱れるところが結構耳に付くのは惜しい。(それはネット評でも指摘されているし、金子も「大オーケストラを振り慣れていなかったことによるコントロール・ミス」について言及している。)特にホルンソロのトチリの多さには閉口した。某掲示板にて「朝比奈/大阪フィルの聖フローリアンライヴってホルンへったくそだよね(改行)中学生並み」「中学生よりはマシだが。。(改行)(改行)一般バンドのホルン程度w」という投稿を目にしたが、それといい勝負である。よって最高ランクには置けないけれども満足度はかなり高い。その舌の根が乾かぬ内に言うのも何だが、もしミュンヘン・バッハ管との厳粛演奏も残されていれば是非聴き比べてみたかったというのが今の偽らざる心境である。(あるいはミサ曲や「テ・デウム」など声楽曲でもいいから発掘されないだろうか?)

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