交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
ギュンター・ノイホルト指揮ロイヤル・フランダース・フィルハーモニック
88/07/04〜08
Amadis 7176

 これまで全然聞いたことのない指揮者および楽団だったが、amazon.co.jpにてユーズド価格349円で売られていたのを出来心で買ってしまった。(注文直後にヤフオクで同品が300円で出ているのを見つけた。誰も入札しなかったから結果的に少し損をしたことになる。)1992年に初発、2000年に再発された模様だが、新品は在庫切れだったし他の通販サイトでも扱っていなかったから、将来レア物に昇格して小遣い稼ぎできるかもしれない。そんな期待も抱かないではなかったが、稀少価値が出ることはまずないだろう。なお届いたディスクを見てちょっと驚いた。私はてっきりナクソス(Naxos 8.550154)と思い込んでいたのだが、実際には上記レーベルだった。どうやら初発盤がNaxosで再発盤がAmadisらしい。要は確認せずに注文した訳である。まあ中身が一緒なら別に文句はないが、ジャケット表紙の "Neubold"(もちろん誤植)はいただけない。(ついでながら、未開封新品なのにケースが割れていたのでガッカリ。海外の業者なので対応までに時間を食うし、何せ安かったからガマンするが・・・・)
 オケ名に馴染みは全くないが地名にはあった。もちろん少年と犬の友情を描いた例のアニメによってであるが、あるいはその親近感も手を伸ばした理由かもしれない。以下もどうでもいい脱線。このアニメおよび原作の舞台となったのはアントワープ(ベルギー)ながら、原作執筆者は英国人らしい。そのため英語読みの「フランダース」が普及するようになった可能性はあるが、確かに「フランドル」よりは優雅な感じがする。ついでながら、このアニメは人気投票番組では常に上位にランクされ、昔も今も広い支持を集めているが、かつて日本在住の外国人に様々な人気作品を見て評価してもらうという企画が放送された際、出身地によって反応が大きく異なっていたのがとても興味深かった。アジアやアフリカ、そして米大陸から来た人達は最終回から大いに感銘を受けたようで、中には涙をボロボロ流していた人までいた。欧州出身者もラテン系は同様だった。ところがちょっと北の連中はみんなシラーッとしている。「私たちは(子供や犬を凍え死にさせるほど)冷酷な人間じゃありません」というコメントから窺えるように相当気に触ったらしい。
 閑話休題。「フランドル地方」とはオランダ南部〜ベルギー西部〜フランス北部にかけての広い地域を指すが、当盤の録音が行われたのは何たる奇遇かアニメ&小説と同じアントワープである。(以下余談だが、ベルギーでは元々仲の悪かったオランダ語圏のフラマン地方とフランス語圏のワロン地方との溝が最近さらに深まりつつあるという新聞記事を読んだ。カナダもそうだが2つの公用語を抱える国ではどうしても対立の図式ができあがりやすい。それに対してスイスのように3つ以上の言語が存在すると住民は抵抗なくマルチリンガルへとシフトするというのだが本当だろうか? そういえば、かつて出張したナミビアでは大学職員がネイティヴ・ランゲージである部族語、英語、そしてオランダ語から派生した南アフリカ独自の言語であるアフリカーンスを器用に操っていたし、さらに出稼ぎ先のキューバで覚えたというスペイン語までペラペラだったのには ─向こうの英語が全然聴き取れず悪戦苦闘していた私にとっては大助かりだったが─ 仰天してしまった。自分もそういう域に達したいと思っているけれども、まだまだ道のりは遠い。)何せベルギーのオーケストラを聴くのは初めてだし、指揮者についても朝比奈が振るはずだった2002年9月の都響定期に代役として客演し、ブル8を演奏したことがあるという情報を得た。そんな訳で興味を抱きつつ試聴に臨んだ。
 第1楽章1分36秒からだんだんと盛り上がっていくが、どの楽器も積極的に弾いて&吹いている様がまざまざと目に浮かんでくる。こういう演奏を聴くと嬉しくなる。そして爆発の直前(1分49秒〜)で驚いてしまった。各々のパートは大したことないかもしれないが、絶妙ブレンドが生み出す響きが素晴らしいのである。(あまり飲んだことがないが、値段がそこそこでも抜群に美味しいレギュラーコーヒーに喩えられるかもしれない。)以降の大音量部分も同様。先に触れた「フランダース」の語感とはもちろん無関係だろうが、何とも上品である。2分38秒からの第2主題提示部分も歯切れ良く進むが、決してせせこましくはない。やや速めのテンポということでヴァント&BPOを思い出した。あちらのようにハッとするような美しさこそ聞かれなかったが、第1楽章を聴いた後の満足度はほぼ互角である。決して大袈裟ではない。個人の技術や身体能力で劣る分を組織力でカバーする欧州小国のサッカースタイルと似ているともいえようか。
 第2楽章は強弱のメリハリの付け方が非常に上手いと思った(例えば1分51秒〜、および1分59秒〜の対比など)。6分26秒からの高弦と低弦による見事な絡み合いにも耳を惹き付けられる。今更ながらだが録音には文句の付けようがない。左右やパートの分離が極めて良好だし、ええ塩梅に加わっている残響のお陰で馬力不足が補われているような気もする。第3楽章はお上品にまとめすぎた感がある。本来狩はもっと荒々しい行為ではなかろうか? ブラスにもうちょっと頑張って欲しかった。終楽章は第1楽章と同じく、冒頭から抜群のチームワークによる充実した響きを聞かせてもらったが、22分弱のトラックタイムにも示されているように穏やかな部分での大らかさにも感銘を受けた。この分ならランキング上位への初登場も間違いなし、と思っていたのだがコーダが予想外にスタスタだったのは残念。とはいえ、当盤が大変な「掘り出し物」であるのは間違いない。
 なお、Naxosからは「音楽の旅」というシリーズのブルックナー編(DVDI-1008)として同じ音源がDVDとしてリリースされ、そちらはネット通販から入手可能な模様である(2000円程度)。ネット上で試聴記(視聴記)を見つけたが、演奏評は「やや平板ながら節度良く、染みとおるようにじっくり纏め上げた渋い演奏」とそこそこにして、映像について延々と賞賛文を連ねていた。「ヒーリングDVDとしても秀逸ではなかろうか」というコメントもあったが、確かにアクのないBGMにはピッタリなのかもしれない。けれども、それで片付けるにはあまりにも勿体ない演奏だと私は思う。Naxos盤がまだ出品されているなら急げ!

4番のページ   指揮者別ページ