交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
内藤彰指揮東京ニューシティ管弦楽団
05/07/05
Delta CLASSICS DCCA-0017

 スタインバーグのページの末尾で触れた当盤だが、必ずしも価格に納得できたわけではないのに「犬」通販から買ってしまった。「輸入盤CD3点買うと25%オフ」&「ダブルポイント」というお買い得セールが終了する直前、マルチバイ割引の条件を満たすために3枚目としてカートに入れたのである。税込2048円は当初の販売価格より2割以上安いはずだが、後で見たら1969円に下がっていた。腹立つ!(某掲示板でも指摘されているようにインターネット税込価格を不当に操作していないか?)
 嫌なことは忘れて試聴に臨む。浅岡弘和のサイトによると、改訂版では第1楽章の31小節(当盤では1分25秒)から減速するように指示しているということだが、内藤はクナやフルヴェンあたりと比べたら随分と控え目である。(「世界初演&世界初録音」を謳い文句にした第3稿ことコースヴェット版ではテンポ指示が異なっているのだろうか?)1分34秒からの弦のオクターヴ上げは既に何度も耳にしているが、文句なしに当盤が最高だ。カラヤンみたいに大袈裟ではもちろんないし、録音のお陰もあってモノラルは言うに及ばすワルターのスタジオ盤よりも艶がある。が、その後が良くない。
 1分42秒から金管がバリバリ鳴るのを予想していた私は見事にはぐらかされたが、1分50秒過ぎから加わってくるティンパニの強打でようやく盛り上がる。「なるほど、こういう解釈か」とその時は納得した私だが、さらに聴き続けている内に気が付いた。全奏はみんなそうなのである。弦の非力が何といっても気になる。意図して抑えている箇所も当然あるだろうが、フォルティッシモで他にかき消されてしまうのはどういうことか。(終楽章はラストもそうだが、挙げていけばキリがないほど。)特に低弦が情けない。(アダージョを聴いていると、いかにも響きが薄い感じを受ける。)木管もソロはOKだが、ここぞという時には鳴ってない(聞こえない)。ブラスはまだ健闘しているといえるが、それでもティンパニに太刀打ちできていないのは痛い。結果として「消去法的ティンパニ協奏曲」になってしまっている。もちろん指揮者の力だけではどうにもならなかったのだろうが、だったらせめて第3楽章のスケルツォ主部の終わり(4分少し前から)のティンパニなど宇野功芳センセイのように徹底的に乱暴狼藉に走っても良かったのでは、と言いたくなる。それはともかく、本来ならもっと劇的になって然るべきなのに、どうも小さくまとまってしまっているように聞こえるのが不満だ。ハッと思わせるほど美しい箇所は決して少なくないのだが、版の魅力を十分に引き出しているとは到底いいがたい(残念賞)。これならクナのBPOやVPOとのライヴの方がいい。(前者は最近買い直したArchipel盤がそこそこ聴ける。)ということで、「犬」サイトのユーザーレビューの上の方にある「企画としては“最高”なんだけど、演奏技術面ではもう一歩かな」や「CDとしての完成度はワールド・ワイドレベルにはないと思う」に私も一票を投じたい気持ちである。もはやこうなると(シャルク版で5番を録音した)ボトスタイン先生の登場を待つしかないのだろうか?
 なお、ブックレットには世界初演にあたっての内藤のメッセージが載っている。よくわからんのが最後の段落(5行)にある「一指揮者のたわ言かもしれませんが、今回の第3稿が数ある版の中で、ブルックナーの意思を最も反映した最終決定版と私は考えます」という文章である。では、その前に23行も使って説明してきた「以上の観点」とやらはいったい何だったのかと首を傾げたくなる。「たわ言」が次の括弧内に入れられた長文の締め括り「今後この第3稿『コースヴェット版』が『ハース』『ノヴァーク』両版を越えてIV番で一番人気を博するようになる日も近いであろう」を指しているというならよく理解できるのだが。(これなら確かに「戯言」「妄想」の類であるとして私にも合点がいく。既に3番では均衡を欠いたノヴァーク3稿が次第に敬遠されるようになって久しいが、そういう風潮をプロの音楽家が知らないはずがないだろうし。)ラストの1文の句点(。)が括弧の外に出ているのも不可解だから単なる編集作業のミスかもしれない。それとも指揮者以外の誰かが注釈のつもりで勝手にこれを書き加えたのだろうか? レーヴェやシャルク兄弟のように。だとしたら、いかにも当盤解説に相応しい振る舞いといえるのだが・・・・
 ちなみに解説執筆者の一人に浅岡も名を連ねている(次ページから掲載)。常々平林直哉を罵倒している彼だが、Delta CLASSICSのディスク製作にも関わっている人物であるというのを私は遅まきながら知った。ならば商売敵である平林(GRAND SLAMに加えて他レーベルにも関与)の言動を快く思わないのも当然であろうが、この演奏に「ブルックナー革命到来!」とか「本CDは今後末永く第3稿の真価を初めて世に知らしめた代表盤として位置づけられることであろう」などと手前味噌を並べているようでは某所などで「同じ穴の狢」呼ばわりされても仕方あるまい。(蛇足ながら「初録音」イコール「代表盤」でないのはインバルの例を見れば明らかである。)余談ついでに書くと、「Hしたい林」君の方は最近クナの8番MPOライヴのオリジナル音源をバイエルン放送から(交渉に交渉を重ねてようやく)入手し、従来より格段に音質向上の図られたCD(Dreamlife)のリリースに貢献するという立派な仕事を成し遂げた。好き嫌いに関係なく私は褒めるべき時には褒める(と、ここでも公正さをアピールするのを忘れないのであった。)

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