交響曲第7番ホ長調
ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮スロヴェニア・フィルハーモニー管弦楽団
84/06/19〜22
DENON 47CO-2033〜34

 マタチッチ最後の録音である。ブックレット裏に「限定3,000セットのうち NO. _」とあり、その右に「2841」というスタンプが押してある。これはリハーサル風景をDISC2に収録した限定盤2枚組(88年1月4日発売)である。ただし、DISC2はボーナス扱いではなく、ケース裏には「定価4700円」とある。わずか16分余りのオマケで2枚分の金を取ろうとするとは、某レーベルも真っ青のボッタクリである。なお、既に他で書いたように私はリハーサルには全く興味がないので、正直なところ「メーワク」「こんなものいらない」である。その後91年と95年の2度にわたって再発されたようだが、95年の再発時にはさすがに反省したのか、シングルCDによるボーナスに変更し、価格への上乗せは止めたようである。何にせよ、スタンプは「愛蔵家番号」というものらしいが、こんなに再発していたら限定盤の価値なしである。
 さて、ブックレットにはスタンプが、そしてディスクには2枚とも黒字のシールが貼ってある。真ん中に白で「RENTAL」とある。そう、これは私がレンタル屋から借りてそのままにした、のではなくて(←自分で書いててもつまらん)、ヤフオクでゲットしたものである。(中古でなく当盤の新品を買っていたら、重ねての再発やボッタクリに対して散々毒づいていたところだ。)落札価格は確か2000円台後半だったが、その後は4000円近くまで高騰しているし、昨年(2003年)タワーレコードから発売されたスロヴェニア・フィル自主制作盤も結構値が張る(2枚組で4000円以上)ので、まあ安い買い物だったといえる。
 やっとのことでディスク評に入る。解説(ここでも宇野功芳執筆)の第2段落冒頭「第1楽章は旧盤よりテンポが遅く、ゆったりと落ち着いた進行を見せる」に「あれっ?」と思う。旧盤(チェコ・フィル盤)の第1楽章は21分31秒であるのに対し、当盤では20分04秒でかなり短くなっているからだ。これを解説者の老化現象で片付けてしまうのは簡単だが、私なりに考えてみることにしよう。正直なところ、やはり第1主題提示は新盤の方が速い。が、2度目の提示の後半(1分36秒〜)からグッとテンポを落とし、シミジミと聴かせるのである。大きく鳴る部分だけに印象に残る。こういうところが少なくないので、遅く感じるのではないかと思った。速い部分はサッサと進めているので、全体としては短くなっているのだ。残響少な目の録音のせいもあるだろうが、オケの響きもチェコ・フィルより乾いており(もっと言ってしまえば艶がない)、音の密度が小さく感じる。それも何か関係しているかもしれない。録音や音色に触れたついでに書くと、新盤はそれらのせいもあってか全体的に淡々とした感じであり、旧盤のように「フライング・ホルン」の後で涙がこぼれそうになるというようなことはない。(ちなみに当盤は改訂版使用ではないらしく、「フライング・ホルン」は入らない。)よって、「決定盤」の1つに数えられるチェコ・フィル盤が1050円で買える現代にあって、あえて入手困難な新盤を求める必要はないと思う。ただし、先に述べたように当盤の方がメリハリが利いており、その「ハリ(張り)」の部分での切々とした響きは聴き物である。どうしてもそれが聴きたい、あるいは旧盤との聴き比べがしたいという人は茨の道を進まれたら良かろう。
 ということで再び宇野の解説に戻るのだが、第3段落冒頭では「それでいて、旧盤に比べるとマタチッチ自身の色が全面に出ているのも面白い」とちゃんとコメントしている。そうなのである。最晩年になるとアクが抜けて、テンポが遅くなるとともに表現も枯れてくるのが指揮者の常だが(←あのヨッフムですら最後はそうだった)、マタチッチは少し違う。枯れていると聞こえるのはオケあるいは録音のせいであって、指揮者自身は決して枯れていない。といって暴れてもいない。やっぱりようわからんオッサンである。敢えて喩えてみれば、悠々自適の境地に入った仙人みたいなものか。仙人だけにアダージョはまさに自由自在で飄々とした感じすらある。(ここの宇野の解説は見事だ。)旧盤のような濃厚な響きではないし、短調の暗い部分も湿っぽくないので、いっそのこと「ハース版的」(ティントナー盤ページ参照)に演奏しても面白かったのでは、とふと思った。3楽章以降について宇野は特にコメントしていないが、それらを聴いての私の印象(完成度とは別)は新盤の方が上である。乾いた音色が曲想と合っているからである。とはいえ、淡々とやっているだけではなく、スケルツォ主部の2巡目を1巡目よりじみじみ演奏するなど工夫している。この解説書のタイトルにも使われていた「内省的」な表現といえるだろう。

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