交響曲第5番変ロ長調
ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮フランス国立管弦楽団
79/05/21
sardana sacd-145/6

 「クラシック名盤&裏名盤リスト」のこの曲の項で、吉田真が「彼の第5ではかつてFM放送で素晴らしいアダージョを覚えがある」→「フランス国立管弦楽団だったとすればCDになっているものと同じはずだ」と少々勿体ぶった言い方をしながら推していたのが、おそらく当盤収録の演奏である。それを読んで是非聴きたいと入手を図っていたのだが、吉田が挙げていたCD(おそらくMETEORのMCD-060だと思われる)では入手できず(ヤフオクに出品されていたのを見たこともなかった)、結局はこのCD-Rを買ってしまった。(Re! DiscoverのRED-77も出ており、こちらは出品されてはいたもののスタート価格が高いので見送っていた。)ヴァント盤3種以降は「青裏」の購入を凍結していたのだが、どうしても欲しかったチェリ9番81年盤(RE! DISCOVER RED-116)を「今回だけ」と目をつぶって買ってから、「青裏」に手を出すのはこれで(雪解け後)3種目となる。やはり気が緩むと財布の紐までもが緩む。(購入には至らなかった入札もある。)なお、当盤の購入価格は2000円(出品価格のまま)+諸経費。ブダペスト響とのモーツァルト25番もカップリングされていたので、まずまずお値打ちといえるだろう。
 ただし、この2枚組には疑問がある。オケも録音日も全く違う2つの演奏を何で組み合わせる必要があるのか? ヴァント&MPOの未完成&ブル9(sacd-105/6)はコンサートの完全収録だから(DISC1が「未完成」のみで収録時間が極めて短くとも)まだわかる。と思ったが、これらのsardana盤が製造された頃(いつや?)は、まだCD-Rに74分録音可能な650MBの規格しかなかったため、当盤のブル5もやむを得ず2枚組にせざるを得なかったということだろう。となれば、モツ25番は「おまけ」として感謝しなければならないのかもしれない。ところで、この頃のsardana盤にはカラヤンやヴァントによるブル5だけの2枚組という製品があったはずである。他にも似たようなものはあるかもしれない。そこで相談だが、現在は700MB(80分録音可能)のフォーマットが出ているのだから、それらを1枚ものとして再発してはもらえないだろうか? 私がCD-Rを封印したのも、既に書いたと思うが高価格(←大量生産不可能という事情は理解できるが)のためである。特に2枚組は消費税や諸経費を加えると5000円という時代錯誤的高価格だったゆえ、買う気がしなかった。それが1枚もの(だいたい2300円プラスアルファぐらいか?)ならば手軽に・・・・  いかんいかん! これではダムに空いた蟻の穴だ。決壊したら借金地獄(←ディスク評執筆のこと)で首が回らなくなるのは目に見えている。「ちょっとだけ」がいつしか死を招く。(クスリかい?)RE! DISCOVER盤ケース裏のマークの意味がよく解った。
 さて、当盤はチェコ・フィルを振ったスプラフォン正規盤の9年も後の演奏だから、指揮者も当然円熟の境地に入り、落ち着いた演奏を聴かせてくれる、などと思ったら大間違いである。7番スロヴェニア盤のページにも書いたが、何せ相手は「仙人」である。一筋縄ではいかない。某巨大掲示板のマタチッチのスレッドには、この演奏について「オケは思いっきりラテンの音だが、晩年にマタさんの到達した領域を垣間見れる名演」というコメントがある。その通り、ヨッフムの57番でもそうだったが、フランス国立管の音は全体的に柔らかい。それゆえ、第1楽章の暴走気味のアッチェレランドやラストの狂騒もチェコ・フィル盤よりは控え目に聞こえる。正規盤(クレスト1000)のようなけばけばしい音質ではないことも影響していると思う。(当盤は音量を上げてヘッドフォンで聴くとヒスノイズを感じ、音の抜けももう一つだが、「リアル・ライヴ」として売るだけの水準はクリアしている。)ということで、先の投稿の「晩年にマタさんの到達した領域」が感じられるのは次の第2楽章(1楽章はオケの音色と録音のせい)であると思う。吉田の言っていたことは嘘ではなかった。金管の渋い音色がものすごくいい。(録音が貢献している。)楽章終盤は「黄昏時」と呼ぶに相応しい。正規盤同様、ここでも改訂版採用で名残惜しそうにフルートが長く引っ張るが、「まだ終わらないで〜」と叫びたくなる。3楽章はやはり音質分だけ正規盤に軍配を上げる。さて、両盤の間の最も大きな相違はいうまでもなく終楽章コーダである。当盤では旧盤のようなシャルクの改訂はほとんど(23分20秒からの金管が1オクターヴ高い気がする)採用していない。マタチッチほどの大指揮者の「ここは改訂版でやりたい」という申し出をオケ側が拒んだとは考えにくい。やはり、指揮者が今回は正攻法(原典版使用)で締めくくろうと考えたのだ。シンバルやティンパニが鳴らないだけではない。(私は版にはあまり詳しくないので、新旧盤ともブラスの増強がどうなっているのかはわからない。)テンポも旧盤より遅めで堂々と進んでいる。ここでもオケの音色のお陰か、金管が他のパートを圧するということもなく、音が1つの塊として響いてくる。(パートの分離の悪い録音もやはり貢献?)まるで巨大な山が少しずつ近づいてくるような感じである。これは凄い! このコーダ(当盤では21分10秒以降)、旧盤では打楽器がなければヨッフムのスタイルに近いという気がした。それでは当盤と最も似ているのは誰の演奏かといえば・・・・実は朝比奈である。親マタチッチ&アンチ朝比奈派からはブーイングが聞こえてきそうだが。

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