交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮フィルハーモニア管弦楽団
54/10〜11
TESTAMENT UCCN-1002 (SBT-1050)

 BBC LEGENDSの3番を聴いてこの指揮者が「本物」だ(超名演の7番はマグレではない)とようやく理解した私は、その後 amazon.co.jp に459番を注文することになる。当盤が国内盤であることを知らなかったため(番号から判りそうなものだ)生協割引の15%分だけ損をしたが、同時に注文した59番チェコ・フィル盤が廃盤扱いで入荷せず、直後に発売された「クレスト1000」シリーズを入手できたため相殺された。(その上、早まって7番を「スプラフォン名盤マスター・トランスファー・コレクション」シリーズで買ってしまった分もこれで帳消しになった。)
 さて、私は当盤を聴いて初めて、モノラル録音であることも改訂版使用であることも知った。つまり何も知らずに注文したのである。(いずれかを知ってたら絶対に買わなかった。)要するに間抜けであるが、そのお陰で悪名高き改訂版がどんなものかを知ることができた訳である。「悪名高き」とは書いたものの、私自身はこの改訂版は初稿ほどは酷いとは思わなかったし、今も思っていない。後述するようにかなり興味深い聴き所もあるのだが、何せモノラルなので音の広がりはなく(スタジオ録音なのでノイズもなく音質はまずまずだが)迫力不足なので人には薦められない。一度ぐらいはいい音で聴きたいと思っているのだが、現代にはこの版で演奏するような「変態指揮者」「悪食指揮者」はいないのだろうか?
 第1楽章は最初ほとんど違和感がない。1オクターヴ高い「ソーファーミレドシーラ♭ラ」(1分23秒〜)もカラヤン盤の強烈なのを聴いた後の耳に与えるインパクトは小さい。「あれっ、変だぞ?」と思うのは、原典版では曲想が短調で激しくなる少し前から(この演奏では7分30秒)入ってくるティンパニが聞こえず、変わる直前(7分33秒)で初めて聞こえるところである。この楽章で私が最も好きな部分であるコラール(8分59秒〜)は、弦がピッチカートでは効果半減に感じるし、逆に3度にわたって入ってくるティンパニは耳障りで仕方がない。(最後の1度だけ採用している演奏でも許し難いのに・・・・)
 続く第2楽章であるが、宇野功芳は「名曲名盤NEW」(98年発売)にて、この曲の推薦盤の1つに何とクナッパーツブッシュ&VPOのスタジオ録音を推している。「改訂版の使用が大きなマイナスとなり、第1、第3、第4楽章はまったく採れないが、アンダンテの美しさ、魅力、意味深さだけは、ことによるとすべてのCDを凌駕するかもしれない」というコメント付きで。(当時は当盤の日本語解説付きとしては未発売だったが、もし直輸入国内盤が出ていたらクナ盤よりはるかに音質良好の当盤の方を挙げていたいたのだろうか?)私はそれが頭にあったので興味津々でここを聴いたが、確かに改訂版の第2楽章はいい。オーケストレーションが。0分31〜39秒のヴァイオリンのもの悲しい音色にドキッとさせられる。3分24秒からチェロが主題を弾く部分では時にソロに聞こえるが、哀愁を帯びた音が実に美しい。マーラー「巨人」の葬送行進曲のようだ。木管の変更も効果的で、森の中を1人で歩む寂しさが感じられるという点では第2稿の上を行っている。きっと「悪趣味」と言われるだろうが、この楽章のアレンジは結構気に入った。
 逆に全く買えないのが第3楽章。スケルツォ主部の終わり方の情けないことといったら! まるでドタバタ喜劇のお粗末な幕切れという感じである。再現部のカットも酷い!! 金子建志は「ブルックナーの交響曲」にて「原典版を聞き慣れた世代はショックを受けることになる」と書いていたが、それどころか、もし私が卓袱台で飯を食っていたら間違いなくひっくり返したところだ。(←古いな。)終楽章もカラヤン75年盤のやりたい放題を知っているから、それ以外の箇所で聞き覚えのない打楽器が繰り返し入ってきても、別に驚いたり腹が立ったりすることはなかった。
 マタチッチが54年に敢えて改訂版で4番をレコーディングした背景には、当時はまだ原典版よりも改訂版の方が知名度が上回っていたという事情があったのかもしれない。が、5番チェコ・フィル盤ページの追記で述べたように、劇的な自分の演奏スタイルに向いていると判断したというのが改訂版使用の本当の理由ではないか、と私は思っている。なお、そこでも「ブルックナーの交響曲」から一部抜き出しているが、その中の「改訂版のロマン的な演奏効果やドラマティックな雄弁術」という言葉は当盤を聴くと納得できる。それどころか、(3番の「ワーグナー」という表題が初稿にこそ相応しいのと同様、)4番の「ロマンティック」は改訂版のみに使われるべきではないかという気さえしてくる。(作曲者自身が付けた表題ではあるが。ところで「表題」と「標題」、正しいのはどっちなんだ?)

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