交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」
ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮ウィーン交響楽団
82/06/09
METEOR MCD-028

 この演奏の存在は少しは気に懸かっていたが、以前ネットオークションで980円で出品されていた時にはプレミアム会員の資格を停止していたので入札しなかった。それで見送ったらそのままで終了(他人が落札)。次にこの品が出品された時には有資格者だったのだが、フィルハーモニア盤に大満足していたので手は出さないつもりであった。が、どういう訳か野次馬入札してしまった(そんなんばっか)。購入価格=1100円+諸経費ナリ。当盤はヒスノイズが豊富だが、ヘッドフォンで聴かなければ我慢できる。ノイズとともにライブの雰囲気が保たれているのは好ましい。ただし、響きは少々混濁しておりパートの分離ももう一つである。私の印象としては、あらゆる点で(演奏、録音)翌年のフィルハーモニア盤の方が上回っており、当盤を優先的に購入する意義はあまりないと思う。買っても損がないのは激安中古を見つけた場合だけだ。
 フィルハーモニア盤のページと同じく、ここでも某掲示板から当盤に触れた部分を載せてみる。

 ブル3は端正なフィルハーモニア盤とちがってウィーン響の奴は
 割と荒々しいエネルギーに溢れた演奏と思ったけど。

私は上にはちょっと首を傾げた。「エネルギーに溢れた」もフィルハーモニア盤の方が上回ると思っていたからである。(「端正」はクリアーな音質のせいではないかと思う。一方、「荒々しい」は粗い録音のためではないだろうか?)そこで改めて当盤を聴いてみた。理由はすぐ判った。当盤はマイクの位置もあってかティンパニが奥に引っ込んでおり(逆に管楽器の音は生々しい)、楔が入らない分だけ力感不足を感じてしまうのである。とはいえ、この演奏も確かにエネルギーに溢れた演奏ではある。両盤の録音時期が1年ほどしか違わないのだから、演奏スタイルがそんなに変わっていないのはむしろ当然なのだが。第1楽章クライマックスの巨大さは83年盤と互角だし、第3楽章は当盤の方が力強さを感じる。(これは濁った響きのせいかもしれない。)けれども、私としてはテンポの動かし方が大胆であるという点を当盤の特徴に挙げたい。トラックタイムを見るとどの楽章も少しずつ短い。実際に聴き比べてみると、速い部分で特に違いが出ているようである。例えば第2楽章を力強い行進曲風の83年盤と比べたら、当盤では時に「おいおい」と言いたくなるほど早足になっている。競歩とマラソンぐらい違う感じだ。第4楽章の冒頭も同じ。ということで、破壊力や味わい深さではフィルハーモニア盤、機動力では当盤ということで強引に特徴づけしてしまう。
 何にせよ、フィルハーモニア盤が出たことにより当盤の意義は一気に薄れてしまった。もはや絶滅危惧種としてレッド・リストに載っていてもおかしくない。この演奏の存在自体が次第に忘れ去られていくのもまず間違いない。(音質良好な別音源によって復刻されれば別だが。)やはり「劣悪な海賊盤」を本気で駆逐でしたいと考えるのであれば、あれ(BBC LEGENDS)くらいクオリティの高い正規盤を出さなければいけないということだ。(聞いとるか?)

3番のページ   マタチッチのページ