交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
ズデニェク・マーツァル指揮ハレ管弦楽団
84/04
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 今年(2005年)から始まった交流戦によって日本プロ野球の人気凋落にも少しは歯止めがかかりそうである。私も先月(5月)からチャンネルを合わせるようになった。例の独裁オーナーの横暴によってつまらなくなる一方だったため、ここ数年はペナントレースの行方にもほとんど関心を失っており、野球といえば専らMLBのゲームを観るようになっていたのであるが。
 しかし、当サイトをあちこちご覧になった方には既に明らかなように、私はサッカーの方が断然好きな人間である。日本代表の試合はもちろん、欧州のリーグ戦やチャンピオンズ・リーグが放映されれば深夜に録画してでも観る。土日には国内リーグも可能な限りテレビ観戦している(NHKの地上波&BSによるJ1、およびKBS京都放送が全試合放送してくれるサンガのJ2の試合)。Jリーグ発足以降にそうなった訳ではない。4年おきのワールドカップ本大会やアジア予選を除き、せいぜいトヨタカップと天皇杯の準決勝&決勝ぐらいしかテレビ中継されず、「マイナースポーツ」扱いだった頃からのサッカーファンだったのである。(特定チームを応援していた訳ではないから「サポーター」より「ファン」の方が相応しかろう。)ワールドカップの78年アルゼンチン大会は断片的な記憶しか残っていないが、次の82年スペイン大会はブラジル vs イタリアの大番狂わせ(ブラジルはジーコ、ソクラテス、ファルカン、トニーニョ・セレーゾという「黄金の4人」を擁し、押しも押されもせぬ優勝候補だったが二次予選で敗退)、およびパウロ・ロッシの神懸かり的大活躍(ブラジル戦、準決勝、決勝の3試合で6得点!)が記憶に深く刻み込まれた。前後するが、79年に日本で開催されたワールドユースでは、優勝国アルゼンチンの主力選手だったマラドーナとディアスの素晴らしいプレーが印象に残った。そのマラドーナの独壇場となったのが86年メキシコ大会。イングランド戦での2得点(「神の手」および5人抜き)は強烈な印象を残し、「マラドーナ・・・・マラドーナ・・・・・マラドーーナーーーーーーー」の実況は今でも耳を離れない。日本代表の試合では何といっても木村和司の「伝説のフリーキック」、そして「ドーハの悲劇」である。ともに残念な結果に終わり、悔しさのあまり寝られなかった。
 実は私が(自分では全然やらないのに)サッカー好きになったのは、地元UHF局(びわこ放送)の番組を子供の頃から観ていたからである。それは言わずとしれた東京12チャンネル(現テレビ東京)制作の「三菱ダイヤモンド・サッカー」である。司会役の金子勝彦アナによる名調子「サッカーを愛するみなさん、ご機嫌いかがですか?」と解説の岡野俊一郎(元日本サッカー協会会長、現IOC委員)の口癖「危ないですねー」「もったいないですねー」は忘れられない。特に前者による実況は杉本清の競馬中継と肩を並べる紫綬褒章級の名人芸ではないかと思っている。(ここで余談。私はNFLも結構好きだが、やはり高校時代に毎週びわこ放送で観ていた番組のお陰である。テレビ神奈川制作の「プロフットボール80」および「(同)81」で、ここでも最強コンビというべき司会&実況の辻豊人アナと解説の後藤完夫による進行が抜群に素晴らしかった。通っていた中学にてタッチフットボール部の試合を観たという程度の私は、レベルの高いプレーにすっかり魅了されたのであるが、特に最初のシーズンはワイルドカード出場でスーパーボール制覇という偉業を史上初めて達成したオークランド・レイダースの快進撃、その中でも強力なディフェンス陣のド迫力に夢中になった。今でも私はレイダースのファンである。なお、後藤は現在もNHK-BSの中継などで名解説を聞かせてくれるが、彼に限らずアメフトの解説者はあらゆるスポーツの中で最も質が高いのではないか。平均値でいえばサッカーはやや劣る。野球はかなり劣る。そのように考えている。ついでに書くと、中学の部活でプレーしていたにもかかわらず私はNBAには全く興味が湧かない。バレーも滅多に観ない。)さらに脱線すると、現在サッカーの実況で一番好きなのは山本浩(上の「マラドーナ」連呼も彼)で、この人は既に鈴木文弥を超えたと思う。(またしても余談。シドニー五輪のサッカー中継で「ゴールゴールゴール・・・・」と二十数回も絶叫した民放のアナウンサーがおり、翌日のネット掲示板では「フナムシ、お前なんか止めちまえ」などと非難の嵐だった。山本は「実況者は、視聴者の感動を横取りしてはいけない」というコメントをNHKのサイトに出したそうである。流石だ。)他にもNHKはレベルの高いアナウンサーを揃えている。一方、民放には先述したような喧しいだけの実況が多く好まないが、TBSは比較的人材豊富であるように思う。
 戻って、「ダイヤモンド」云々という番組名を意識するようになったのは随分後のこと(大学生時代にテレビ愛知で観るようになってから)である。私には「イングランド・サッカー」「ワールド・サッカー」の方が馴染みが深い。もしかしたら、そういう名で新聞のテレビ番組欄に出ていたのではなかったか? 調べてみたら68年から英国BBC放送製作のサッカー番組を日本語版に翻訳して紹介するようになったのが始まりらしい。また、「ワールド・サッカー」ではWC本大会から重要な試合がピックアップされていたはずだ。(最も感動したのは82年大会の準決勝、PK戦までもつれ込んだ西ドイツ vs フランスである。私が観た中でベストゲームに挙げてもいいほどだ。)他に奥寺康彦がヴェルダー・ブレーメンでプレーしていた時にはブンデスリーガの試合も放送されていた。現在高原が所属しているハンブルガーSVは、当時バイエルン・ミュンヘンと並ぶ強豪で、奥寺のブレーメンはいつも痛めつけられる側に回っていたと記憶している。
 さて、当時のイングランド・サッカーといえば「とにかくサイドからセンタリングを上げて、あとは空中戦で勝負」といった大雑把なスタイルで、現在のプレミアリーグとは似ても似つかぬ貧相な試合内容だったと今になって思う。当時の代表チームが弱かったのも当然である。その頃リーグで圧倒的に強かったのが「赤い壁」ことリヴァプール。優勝は何と18回を数える名門である。(プレミアリーグ移行後は一度も優勝できないなどパッとしなかったが、今年の欧州CLを制覇し完全復活をアピールした。)そのリヴァプールにどうしても歯が立たなかったのがマンチェスター・ユナイテッドである。なぜかこのチームの試合が番組で採り上げられる回数は多かった。(地図を見て初めて知ったが、リヴァプールとマンチェスターは結構近いので、両チームの対戦は双方のフーリガン、いやサポーターによって相当に盛り上がったことだろう。)そして、私は「判官贔屓」によってこの「切られ役」(←実際にはそこまで弱くはなかったが)チームを応援していたのである。後にベッカムに代表される有力選手を集め、黄金時代を迎えたのは改めて述べるまでもないが、もはや90年代以降は別物だと考えているので愛着は全くない。というよりハッキリ言って好きではない。別ページに書いたアホ面選手を抱えているイレアルよりはマシという程度である。とはいえ、他にも知将ヴェンゲル(←彼を日本に留めておけなかったのは痛すぎ)が率いる常勝チームや石油王軍団も湯水のごとく大金をつぎ込む時代であるから、別にマンUだけを嫌っても仕方がないのは承知しているが・・・・
 ということで、実は当ページ作成にあたるまでハレ管弦楽団がマンチェスターに本拠を置くオーケストラだということを全く知らなかったのである。(それを言うためにこれほど長い、しかも音楽とは全く関係のない前口上を述べるとは・・・・自分でも呆れてしまう。)設立者のカール・ハレ(ドイツ人指揮者)の名を冠したというのも調べてみてようやく判った。(そういえば、プロムス2004ラストナイトではマンチェスターからの中継でハレ合唱団が参加していたが、名称の由来はたぶん同じだろう。)それまではチューリッヒ・トーンハレ管と同じく、ホールを意味する "Halle" から取った、もしくはUKにハレ市があると錯覚し、「けったいな名前やなぁ、雨が降ってもハレかいな」などとしょーもないことを考えていたのである。ただし実際ドイツ(旧東独地域)には存在する。(余談ついでだが、2003年春にはドイツ最古の大学の1つであるハレ・ヴィッテンベルク・マルチン・ルター大学を訪問した。)この辺にしておかないと怒られてしまいそうだ。
 この団体についてはバルビローリが常任指揮者に就任して名門オーケストラに鍛え上げたという程度の知識しか持っていない。(どうでもいい話を長々と書いておきながら、これだけというのも全く酷い。)8番はそのバルビローリ盤を持っているので、いつかディスク評を書くことになるだろう。(結構ユニークな演奏である。)また、スクロヴァチェフスキが(ザールブリュッケン放送交響楽団との全集とは別に)このオケと4番を録音しているということも知っており、中古市場で何度か見かけたけれども「ミスターSはもういいや」という気分だったので(9番ミネソタ響盤と同じく)手を出さなかった。(2006年1月追記:今月出来心入札→入手してしまった。)当盤を購入したのはひとえに指揮者がマーツァルだったから、トラウマとなるほどの強烈なダメージを許光俊に与えたのが他ならぬ彼だったからである。(なお、ネット通販やCDジャーナル等の音楽メディアの表記に倣って、私も「ズデネク・マカール」ではなく「ズデニェク・マーツァル」を使う。ところで、私はチェコ語には全く明るくないが、"Macal" の "a" の上に付いているのはアクセント記号ではないのか? そうだとすれば、カタカナ読みする場合「マ」の後に長音記号が入っている方が実際の発音とも近くなるので、その理由からも「マーツァル」という表記の方が適切だと思う。思い出したが、 "Maazel" の読み方も「マゼール」やNHKが使っている「マゼル」よりは「マーゼル」に近いという話だ。確かに "a" がダブっているのに "e" を引っ張るのは不自然である。もっとも、こちらは既に誤読が定着している感があるので私も変える気はないが・・・・)許が「クラシックCD名盤バトル」にぶちまけた悪評については既に7番ヘレヴェッヘ盤ページに記してあるので、それを参照されたし。ただし、そちらにも書いたように私がテレビで観たマーツァルの尻振り、いや指揮ぶりは極々真っ当なものだった。では演奏はどうか?
 おそらくはスタジオ録音のためだろうが、そして曲の違い(許が生で聴いたのはドヴォ8)もあるだろうが、「荒っぽく、お客の受けを狙って騒がしくする最低のもの」とは全く次元を異にする名演奏であった。許はUKのオーケストラについて「技術は高いが魅力に乏しい」というようなことを「クラシックを聴け!」に書いていたはずだが、確かにヨーロッパ大陸のオケのように強烈な個性を発揮するということはないと私も思う。しかしながら、そのニュートラルであるという点がこの演奏ではプラスに作用しているような気がする。思い出したがティントナー盤がそうだった。余分な力が全く加わっていない自然体の演奏。ドイツの深い森ではないが、英国の豊かな自然をそのまま音にしたような響き(←良く言えば「長閑そのもの」、悪くいえば「田舎臭い」か?)が何ともいえず美しい。マーツァルの方がテンポが速く、若々しさの感じられる演奏であるが基本的には同じだ。(ただし終楽章11分15秒で曲想がガラッと変わってからは、掛け合いのホルンが何ともいえず下品な音を出す。まるでアーノンクールのような過激さだが、いったい何があったというのか?)既にN響との「第九」からも窺い知れたことであるが、これだけの演奏を聴かせてくれる指揮者が実力者でない訳がない。今度はチェコ・フィルとの共演によるブルックナーを聴いてみたい。マタチッチ時代以降のオケの変貌を知りたいということもある。ただしEXTONレーベルのディスクは安くないので、移籍してもらえるとありがたい。できればナクソスかアルテ・ノヴァあたりに。(←コラコラ)
 最後にまた余談で恐縮だが、classics for pleasureというレーベル名は初めて知った。包装のビニールに張られていたシールやケース裏などには、口に出すのもおぞましいアルファベット3文字が記されていたような気もするが、見なかったことにしよう。

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