交響曲第8番ハ短調
ロリン・マゼール指揮バイエルン放送交響楽団
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Dreamlife DLVC-8017

 映像ソフトは買わない方針だったが、(既に定価1995円と十分安い)当盤が「犬」通販にて一割引(1796円)で売られているのを見て遂に注文してしまった。(HMVダブルポイント、クレジットカードのポイント、そしてgpointを計算に入れると生協の15%オフよりお買い得になったのである。)とはいえ、DVDプレーヤを持っていないため職場のパソコン(iMac G5)で再生するしかない。(iTuneに慣れてしまうと聞き返したい部分にすぐ戻れないのが何とももどかしい。DVDから音声ファイルを分離し、青裏に焼く方法もあるらしいが、そのためのマック用フリーソフトを捜しても見つけられなかったので断念。)また、映像よって評価が左右されてしまう(そうなれば「番外」扱いにせざるを得ない)のを防ぐため、ウィンドウを背後に隠して本稿を執筆することにした。
 トータル88分強(楽章間インターバルを加えると90分を超える)というスロー演奏だが、18分に迫ろうとする第1楽章は特にノロいとは感じられなかった。指揮者の力量とともにオケの高精度もそれには貢献しているのだろう。巨大スケールというプラス面のみを感じた。(ちなみに当盤の音声はCDと比べても特に劣っているようには聞こえなかった。ライブ演奏だがあまり生々しさは聞かれない。ビデオカメラを意識したのか指揮者もオケも、そして聴衆も少々おとなしい感じで、そのため熱演というよりは格調高い演奏という印象を受けた。後はどちらを好むかという問題だろう。ただし、特定パートが妙にハッキリ聞こえることがあり、パートバランスという点では違和感を覚えないこともなかった。)第2楽章にも16分半をかけているけれども、トリオの立ち上がりはかなりスタスタ(若い頃のマゼールはこういうことをしょっちゅうやっていた)で、その分中間部やスケルツォが遅くなっている。つまりカラヤンVPO盤やギーレン盤のように一様に遅い演奏ではなく、テンポのメリハリを相当に利かせているのだ。さて、そのスケルツォだがノロい、というよりさすがに緩く聞こえてしまう。生で聴けば、あるいは映像を観ながらだと違って聞こえるのかもしれない・・・・という誘惑に負けそうになるところをグッと堪える辺りは流石である。アダージョは約30分。どうしたって間延びを危惧しない訳にはいかないトラックタイムである。が、驚いたことにそういうところは全くなかった。BRSOにしては重厚と感じられる響きがこのスローをテンポを支えているからである。ザンデルリンクの7番ページにも似たようなことを書いたが、既にマゼールはあの域に達しているのかもしれない。クライマックスまでの盛り上げ方に少々「あざとさ」を感じてしまったのがマイナスといえばマイナスである。ただし、こういうのがあってこそのマゼールという見方は可能だ。彼はどんなに円熟しても「やるときゃやる」という姿勢は決して変えないような気がする。終楽章は「マゼールにしてはつまらない」という声が出てきそうなほど真っ当な解釈である。もちろん私は堂々とした演奏として肯定的に捉えることができるが。仮に89年BPO盤が制作者によって台無しにされなかったとしてもそれを問題なく一蹴できるほど素晴らしい出来映えである。再現部の入りで勢い良く飛び出す。これが最晩年に「巨匠」と称せられた一部の指揮者達とは違うところである。またコーダ直前もちょっと「解釈」が入っている(私的には減点)し、コーダ前半もかなり煽っていたりする。結局のところ彼は「円熟」しても「老成」はしないタイプなのだろう。ショルティのように。敢えて注文を出すとすれば「もし気が向いたらハース版で演ってくれないか」であるが、あるいは彼のことだから「改訂版を振ってアッと言わせてやろう」と考えるかもしれない。それはそれで興味深いが・・・・
 ということで、具体性にはかなり乏しい気もするがここで終わりにする。これで心おきなく視聴することができるというものだ。やれやれ。明日は日曜なので自宅のノートパソコンをテレビと接続し、ゆったりとくつろいで観るつもりだ。(追記:再生中に1秒間ほど音が途切れるというトラブルが数分に1回の割合で起こった。原因は不明だがこれでは落ち着いて鑑賞することは到底不可能である。やっぱ専用のプレーヤを買うか。)

追記
 映像についてコメント。指揮者の真正面のアングルが圧巻であり、(踊るようなクライバーとは少し違うけれども)優雅な指揮ぶりに魅了された。なお、目次ページでも引いた「あまりにも才能がありすぎるため、他の音楽家が全く信用できないらしい。名門ウィーン・フィルハーモニーでさえ、マゼールにとっては子供同然で、四拍子のやさしい曲でさえ、きちんと四つ振ってから音を出させるという。」(宇野功芳著「名演奏のクラシック」)は当DVDでも確認された。「几帳面に過ぎませんか」と言いたくなるほど入念な前振りを行っている。

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