交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」
ロリン・マゼール指揮バイエルン放送交響楽団
00/04/02
En Larmes ELS 02-161

 既に他ページに書いたように、3番では数々の名演を残しているバイエルン放送響だけに期待大である。85年のVPOとの共演が壮絶さを極めていたマゼールだから尚更だ。そして、それは裏切られなかった。まさに非の打ちどころのない演奏である。アンサンブルは完璧。演奏水準は明らかに85年盤を凌駕している。パートバランスも絶妙で、超優秀録音のお陰でどの楽器も聞き取れる。オケの実力も忘れてはいけないが、指揮者の統率力が並大抵のものでないことは当盤を聴いた誰の耳にも明らかだろう。(ただし、目次ページで紹介した「悪魔の店主」が「めっちゃムカつくー」というコメントを発したくなるほどに才能を見せつけるような演奏とはちょっと違うような気がした。特に鼻につくような所は聞かれないからである。もしかすると彼が紹介したのは別演奏=VPO96年盤だったかもしれない。ちなみに私が85年盤と当盤を買った相手は、その96年盤をつい最近出品したところである。これを書いている時点で既に入札されているし、今更のようにも思うので敢えて競り合うつもりもないが、「なんで3種まとめて出さんかったんや」と文句の一つぐらい言いたい気分である。)
 ただし85年盤を聴いた直後には戸惑ってしまったのも事実である。「変態と紙一重」とでも言いたくなるようなデフォルメがすっかり影を潜め、極めて「真っ当」な演奏だったからである。第1楽章の中間部ピークやコーダなどで大きくテンポを落とすということはなかった。トータルタイムが3分以上短くなっており、終楽章を除き基本テンポも速くなっている。(もちろん楽譜の読みは確かな指揮者であるから、突如スタスタと走り出すといった無謀な真似はしていない。)終楽章のエンディングこそ大見得を切るが、そこに至るまでの演奏は見事なまでに均整が取れている。85年盤からのあまりの変わりようが私にはとても興味深かったが、「妙にスッキリしてしまったな」という感じはしないでもなかった。当盤のみを聴いた人は、あるいは物足りなさを覚えるかもしれない。
 それにしても食えんオッサンである。目次ページで触れた竹内貴久雄の「自身の過去を否定しながら、大きな振幅で別人のごとくに変貌する」「次々と別の場所にワープしている」といった言葉が思い出される。私は吉井亜彦のように「最初のマゼールのイメージから一歩も動かないでいると、完全に置いてきぼりを喰ってしまう」ことにはならないだろうし、マゼールがこのままの路線を歩み続けるとも思っていないが、それでは一体どういう方向に転換するのかと訊かれたら完全にお手上げである。何にせよ、当分の間は目が離せそうにない指揮者であることは間違いない。最晩年にブルックナーを再録音することになれば何を措いても入手せねばなるまい。

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