交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団
録音年月日不明
The Bells of Saint Florian AB-12

 当盤を79年録音のCBS正規盤と比較すると、両端楽章が約2分、中間楽章が約1分ずつ短くなっており、トータルタイムの差は何と6分(67:09 - 61:17)にも及んでいる。最初に聴いたハイティンク盤(トータル68分強)によって4番に親しんだだけに、トータル60分そこそこというセカセカテンポの演奏はそれだけで「却下」と言いたくなってしまう。例えばフェドセーエフ&VSO盤がそうだし、クレンペラーはPOスタジオ盤もBRSOライヴ盤もダメである。(若い頃のクレはもっと速かったというのだから呆れる。)それでも響きが極めて独特なレーグナー盤のように、どこか一風変わった演奏なら、それを楽しむこともできるのだが。とはいえ、元は快速テンポだった指揮者が晩年に緩んで遅くなったというのも感心できない。特に指揮者の体内時計の進み方がノロくなったために全体を均等に引き延ばしたような演奏を聴かされるのは苦痛であり、「遅延行為」に対してイエローカード(1枚目)を出したくなってしまうほどだ。(ヴァントは後の録音の方が遅いが、少なくともケルン76年→NDR90年→BPO98年という3種の正規録音については、後のものほど腕の立つオケとの共演であり、充実した響きのお陰で遅いテンポでも間延びしないと判断したからこそ、スケール感を拡大するためにゆっくり振ったのだろうと私は考えている。ただし「ラスト・レコーディング」こと2001年NDR盤の評価はやはり難しい。)
 さて、ネット上をあちこち検索したものの当盤の録音年月日は結局「不明」であるが、「鐘」レーベルだからどんなに早くても70年代の演奏と思われ、79年録音の正規盤とは10年も違わないはずである。それでこんなにテンポが違うのはちょっと驚きである。ジックリ考えてみなければならない。似たようなケースにケーゲルの4番異演奏がある。彼のODE激安ボックスに収録されている60年4月3日のモノラル録音はトータル63分だが、71年9月21日のステレオ録音は同じくライブながら69分。演奏時間だけで考えると、時代を経て基本テンポが遅くなったと誤って解釈してしまうところである。けれども、彼のディスク評のどこかに「一期一会で演奏に臨むタイプ」と書いたはずだが、このライヴ演奏2種は全く違った個性を持っている。さらに先頃発売されたPILZのスタジオ録音盤(残念ながらモノラル)は60年11月11日に行われたにもかかわらず、トータルタイム(拍手や楽章間インターバルを引いた正味の演奏時間)は何と71年盤の方に近いのだ!(各楽章のトラックタイムもよく似ており、前半2つの楽章は71年盤ライブの方がそれぞれ30秒ほど短いだけ、そして後半はほとんど差がない。)60年スタジオ盤では、録音という「国家的イベント」ゆえの入念なリハーサルの結果として、最も妥当なテンポを選択したということだろう。一方、同じ年のライヴでは様々な状況を考慮して、あるいは何らかの狙いがあって速くしたと思われる。
 ここでクーベリックに戻るが、彼の場合も録音時期を判断材料にすれば当盤収録の演奏を単に速くやったとは考えられない。目的意識を持った快速テンポなら大歓迎である。実際に聴いてみた。(最近この繋ぎを多用しているが、もちろん例の番組を参考にしている。常に流行に敏感な私だからこそなせる技といえよう→嘘ばっかし。)
 第1楽章冒頭を聴くと意外に感じる。基本テンポはもちろん速めだが、スタジオ盤と比べてテンポがムチャムチャ速いということはないからである。ところが、7分43秒からさらにアクセルを踏む。要はこういったメリハリによってトラックタイムが短くなっていたのだ。(メリハリといえば11分過ぎの再現部でのティンパニがかなり耳に付く。ここまであからさまに叩かせているのは当盤だけではないか?)先述したように、何も考えていないようなスタスタ演奏(一様に速い)とは一線を画している。テンポ変更もブロックの変わり目に限定しているから、もちろんOKである。第2楽章は正規盤と比べても極端にテンポが違うわけではなく、演奏スタイルも一緒である。ここではピークの入りが滑らかなのが好ましい。スケルツォが弾むようなのも正規盤同様。テンポが速い分、軽快さでは上回るか? 終楽章は第1楽章同様のメリハリ演奏で、両端楽章のバランス、そして4つの楽章の統一感はちゃんと保たれている。
 レーグナー盤のページでも述べたように、明るい音色は軽快テンポとの相性は悪くない。ただし、時に勢い余ってつんのめりそうになるのは「鐘」3番と同様だが、「ブルックナー・リズム」が頻出するこの曲では、その音型が崩れてしまっているように聞こえるのがちょっと痛い。また、音質も3番よりは劣る。

4番のページ   クーベリックのページ