交響曲第5番変ロ長調
フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
61/06/30
BERLIN Classics BC 2079-2

 許光俊が「クラシックCD名盤バトル」で推薦盤に挙げていたため、かねてから注目していた。(評中に「大きなキャベツをざくっと切るような弦楽器」という記述を見つけたが、アーノンクールの4番評で無意識にパクってしまったのかもしれないな。他にも「森の大樹のような低弦」「豪快な鳴りっぷり」等そそられる表現が目白押しである。)単品では決して入手しやすくはないと思われたが、ネットオークションにて予想外の安価で落札できてしまった。廉価ボックスで所有している人が多いのかもしれない。(ブル27番他と共に「フランツ・コンヴィチュニーの芸術─2」11枚組に収録されている。)  ネット評(ブルックナー総合サイトのオーナーおよび投稿、あるいはI氏の総合サイト等々)も概ね好意的であり、「この大伽藍のような交響曲は、恰幅のいい構えの大きな演奏で聴きたいという方にお勧め」「彼にはこの曲(註:7番を指す)よりも第5番などのようなゴッツイ曲のほうが向いているようだ」として曲の性格と演奏スタイルとの相性の良さを指摘するコメントも出ている。(指揮者の写真から受けるイメージも多分に影響しているような気がする。)が、私の捉え方は少々異なる。決してケチを付けようとしているのではない。
 第1楽章はゆったりと始まるが、1分丁度で驚いてしまう。繰り返される「ミソド」が異常に速い。1分22秒以降も同様。その後1分42秒からグングン邁進し、軽快なテンポのまま2分03秒のファンファーレを迎える。これではまるで快速演奏(トータル70分前後)の立ち上がりである。そして音色が明るめであるから、響きとテンポのバランスが取れた秀演であると早とちりしてしまいそうである。ところが実際には2枚組でトータル81分を超えている。(この点に関し、重厚さの不足として否定的見解を述べていたページを見たはずだが、捜しても見つからなかった。)聴き進むうちに理由はハッキリする。12分台に入るとドッシリ腰を落とし、これでもかと粘りに粘る。(将棋に喩えたら穴熊囲いに金をベタベタ重ね打ちするかのようだ。)15分35秒のピークの前後の盛り上げ方も凄い。後半から聴けば間違いなく極大スケールの演奏と思うはずだが、先述したように冒頭は軽快だから楽章を貫く基本方針といったものはまるで考慮されていないように思える。ところがである。だからといって「ダメ演奏」かといえば、どういう訳か全然そうなってはいないのだ。ここで改段落し、落ち着いて理由を考えてみる。
 コーダ(21分ジャスト〜)こそインテンポであるが、その少し前の表現はまさに自由自在である。20分34秒からの大きな呼吸、20分48秒からの少しよろめくような歩み。これらは他の指揮者からは全く聴かれないもので非常に印象的だった。(ついでながら、18分36秒でティンパニのゴロゴロがハッキリ聞こえるのも記憶にない。)ここで再度許の評を引かせてもらう。「これで聴くと、すでに書かれている楽譜にのっとって演奏しているのではなく、音楽がたった今生成していると感じさせられるのだ」とあるが、スタジオ録音ながらこの演奏でしばしば聞かれる即興的な「崩し」のためではないかと私は考える。ネット上には「リズムの取り方が独特(時代がかったあるいは鄙びた)で馴染みにくい面もある」というコメントもあった。が、ここでも私は「ただ聴いてみればいいだけのような、音楽といっしょに呼吸していればいいだけのような不思議な演奏である」という許の側に与したい。当盤の大きくうねるようなフレージングにも不自然なところは一切感じられなかったからである。マタチッチ&チェコ・フィルの7番評に私は「指揮者の体内時計が刻む通りに振ったらこんな感じになるのではないか」と書いたが、それと通ずるところがあるように思う。(当盤と比べたらアイヒホルン盤は2種ともはるかに作為的である。)要はコンヴィチュニーの「体内時計」(「呼吸」でも「脈動」でも何でもいいが)には、いつの間にか聴き手のそれを同調させてしまうほどの力強さがあるいうことだ。(例によってこの種の良さは文字にしにくい。)なので、先に触れた「響きとテンポの関係」など超越している、というより最初から問題にしていないのかもしれない。
 終楽章も同様のスタイルなので部分的な指摘は繰り返さない。第2楽章はブロック内でのテンポ変更はなく端正な演奏であるが、遅いところはとことんネットリ、明るい長調部分はアッサリという対比が見事である。第3楽章もメリハリを利かせているが、あくまで自然体を崩さないのが素晴らしい。(トリオに入る直前のティンパニ連打は喧しいが・・・・・)

おまけ
 尼損のレビュー(「CDジャーナル」データベースより)はこうである。「ドイツの伝統的な…なんて思わずイメージしているお嬢さん,甘いぜ。どっこらしょと重い響きとは大違い。極めて明確なアーティキュレーション,軽薄でないリズム,金管の強奏,強弱のメリハリ,各楽器のバランス,オケのうまさ(今と大違い),推薦。」内容には肯かされるものの、このアホ口調は一体誰だろうと気になってしまう。I原か?

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