交響曲第8番ハ短調
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
61/10/29
LIVING STAGE LS 4035148

 BPOとの89番国内盤(Tahra直輸入)解説にて、平林直哉は61年のVPOとの8番について「ずしりとした感じが63年のMPOライヴに近く、また63年のMPOスタジオ録音&ライヴよりも音色に艶があり、手ごたえは十分である」「しかし、LPの時はかなり明瞭な音質だったが、同一演奏のCD(キングレコードKICC2378〜9、1995年1月発売)ではずいぶんとレンジの狭い音質へと変化している」と述べている。このうち第2文についてはLPもキング盤も聴いたことのない私には何とも言えないが、ネット情報によると当盤はLPの板起こしによるイタリア盤と同じ音源を使用しているという話で、スクラッチノイズは混入しているもののクナッパーツブッシュ協会から提供された音源を用いたキング盤などより音質自体は良好であるという意見も見た。いずれにせよ、クナの他のモノラル盤よりも極端に聞き辛いということはない。
 ただし当盤は大きな問題を抱えており、通販サイトのレビューでも指摘されている。再生開始直後に判明するが、とにかくピッチが高いのだ。いくらVPOが他オケより高いといってもこれはあり得ない。以下はまさに的を射たコメントである。「この録音はおそらく半音は上ずっている。従ってハ短調も調性から逸脱しており別な曲を聴いているよう。気持ちが悪いと思う方もいると思う。おかげで何とか1枚に収まっている。」最後の文にあるように、どうやらこの演奏のトータルタイムは本来なら2枚組になって然るべき82分強を要していたようだ。(S氏の「クナを聞く」第121回となる61年盤ページでは海賊CD-Rも含めて5種類の音盤が比較されているが、どういう訳か当盤は紹介されていない。常軌を逸したピッチ変更が腹に据えかねて叩き割ったのだろうか? → 誰かさんじゃあるまいし。)そこで、音声ファイル加工ソフトを使って、私の耳が慣れているハ短調になるべく近づけるようピッチ修正を試みた。(サンプリング周波数を44.100kHzから41.625kHzに下げた。)変更前後のトラックタイムは以下の通り:第1楽章,14分43秒→15分35秒;第2楽章,14分10秒→15分00秒;第3楽章,25分07秒→26分36秒;第4楽章,24分17秒→25分44秒。終楽章のみちょっと低いような気もしたが、微調整はできないので仕方がない。
 さて、補正後にCD-Rに焼いて聴いたところ、演奏はたいそう立派なものであり、上で引いた平林の第1文に対しても全く異存はない。ところで、S氏はクナの63年MPOライヴをあらゆる8番録音中で最も好きだと述べている。一方、出回っている5種類から私が(録音を考慮せずに)演奏だけで選ぶとすればこの61年盤になる。ライヴ特有の激しさや引きずるような重々しさは63年盤も互角だが、第1楽章終盤(カタストロフ直後)の改訂版による寂しげな部分での細かな表情の付け方、最後まで流さずに勢いを保ったまま締めくくるスケルツォ主部など、ちょっとしたところの差が積み重なって、当盤の方が完成度が高く美しさも上回っていると感じる。(聴き比べて気が付いたが、ともに海賊盤ながら音質は圧倒的に当盤の方が優れている。63年ライヴの中でもDISQUE REFRAIN盤の音質がとりわけ良くないのかもしれないが。)一方、何かを引きずるような重々しさでは63年盤で、終楽章後半の改訂版由来によるティンパニ乱れ打ち部分の壮絶さやエンディングの「これ・でも・か」の徹底ぶりなど、クナらしさという点でもやはり向こうが上回る。フルトヴェングラーの49年盤(勢い)と54年盤(堂々)の比較に近いかもしれない。となると、やはりオケの違いがかなりの部分を占めていると考えない訳にはいかない。本当に当盤で聞けるVPOの響きは充実している。これが2年後にシューリヒトと尻軽演奏を繰り広げた団体とは到底思われない。

8番のページ   クナッパーツブッシュのページ