交響曲第8番ハ短調
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
51/01/08
KING International (Tahra) KICC-4248〜9 (TAH 207/8)

 当盤はBPOの演奏だけにやっぱり上手いし、鳴りっぷりも重量感にも不足していない。音質もさすがはTahraの正規盤というべきか、難ずるような所はあまりない。とはいえ、当然ながらステレオのMPO63年スタジオ録音盤には敵うはずもない。したがって、そちらにはない優れた点を当盤から見つけ出さねばならないのであるが、さて。
 当盤では客席からのノイズは全く聞こえないが、どうやら放送用音源らしい。だからライヴのノリというものは本来存在しないはずであるが、基本テンポが63年盤より速く、1枚に収まっていることからも判るように全体としては勢いがあり、部分的にはネットリと歌うようなところもある。つまり即興性で上回っているということになるだろうか。それは第1楽章からも早々と感じ取れることであるが、より顕著なのは終楽章である。例えば6分05秒の曲想が変わる所では、それ以前のテンポから次第に逸脱し、あれよあれよと思っている内に猛スピードに達してしまう。フルトヴェングラーでもここまでの加速はブルックナーではやらなかった。しかし、既にあちこちでぼやいてきたように、私はこういうスタイルの演奏を聴くと即座に抗原抗体反応(←素直に「アレルギー」あるいは「拒絶反応」と書けばいいものを)が起こってしまう。ただし、第1楽章8分過ぎの盛り上がりには節度があり、クナが単なるイケイケ指揮者でないことを示している。(ここで猛烈な加速を行う指揮者は私にはアホとしか思えない。表現が軽薄になるだけで、何のプラス効果もないではないか?)この楽章終盤のカタストロフも同様である。
 当盤で最も良いと思ったのは第3楽章である。27分弱というのは極端に長いわけではないが、他の楽章が速めなので、かなり思い切って遅いテンポを採用しているといえる。その上で緩急自在の演奏を繰り広げているのだが、何せアダージョなので加速するといってもたかが知れている。というか私が許容できる範囲に収まってくれている。そして遅い部分(例えば9分44秒)のしみじみした表現は素晴らしすぎる。もしかすると他の楽章も私が気に入らないというだけで、優れていることに変わりはないのかもしれない。あるいは、私にもそのうちに良さが解ってくるのだろうか?
 ということで、音楽の流れの良さという点で当盤は完全にMPO盤より上だと思う。滑らかな流線型の演奏とでも形容すれば良いだろうか。その分、MPO盤で聞かれるような角張った(ゴツゴツした)感じは後退しているが、曲線(微分が可能)と直線(不可能)とは相容れないのでやむを得まい。安易なレッテル貼りは(私自身がMPO盤のページにて戒めていたように)よろしくないとは思いつつも、当盤が都会人の、MPO盤が田舎人のブルックナーとも喩えたくなってしまった。あとはどちらを好むかという聴き手側の問題があるのみだ。

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