交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
64/04/12
NUEVO ERA 2205

 当盤についてもS氏の批評が大変的確で、しかも感動的であるため、私が付け加えることは特にない。例によって改訂版採用により第1楽章1分21秒でテンポを落とすが、これまでの演奏とは少々異なり、何ともいえぬ「シミジミ感」が絶妙である。その後1分36秒からは弓を引き絞るかのごとく溜めに溜め、フォルティッシモで凄まじいエネルギーを発散させる。まさにクナ節全開であるが、「何でもアリの巨匠」だけにオケメンも観客も「ま、いっか」と許しちゃっているのだろう。再現部14分30秒からも全力投球。50歳を過ぎた村田兆治が渾身の力を込めて放る140km/hの直球のようで感動的である。そして17分過ぎの大見得には完全に圧倒された。「悔いを残さぬようやれるだけのことをやったるわい」と指揮者は思っていたのかもしれない。逆にちょっとしたところでテンポを落として滋味を加えているのも見事。こういったメリハリの付け方は大ベテランならではの至芸といえる。第2楽章は「訥々」、第3楽章は「飄々」で、44年盤や55年盤と同じだが、より徹底しているという印象を受ける。第1楽章と同じく終楽章も冒頭から「やりたい放題」である。とにかく啖呵の切り方が中途半端ではなく、12分台では付加されたティンパニの大活躍もあって大いに盛り上がるが、こんなのは絶対に他の演奏では聴けない。それが収まった後の寂寥感がまた泣かせる。何とドラマティックな演奏なんだろう。この曲のタイトルにはそっちの方が相応しいと思わせるほど劇的だ。
 当盤は冒頭からいきなりホルンがひっくり返っているように、完成度は以前の録音2種同様さほど高くはないが、トラックタイムがどの楽章も2分前後長くなり、しかもユルユル直前で踏みとどまっているお陰で、粗さはそれなりでスケール感だけが増幅される結果となり、クナの豪快スタイルとは見事にはまることとなった。ヴァントの「ラスト・レコーディング」と同じく、これだけを聴いていても真価のわからない演奏だと思う。ところでヴァントといえば、同郷人による5番の改訂版使用を遠回しに批判していたのを思い出した。もし彼がこの演奏を聴いていたら「こんなクソ版使うてアホみたいな演奏しよってからに。お前なんぞエルバーフェルトの地元の恥ぢゃ!」と内心煮えくりかえっていたことだろう。けれども、私にはエンターテイメントに徹しながらも最後の一線では格調を失っていないと聞こえる。表面だけを真似た某指揮者(兼評論家)とは違うのである。なお、マスターテープがかなり痛んでいたようで、左右いずれかのチャンネルでのドロップアウトが何ヶ所もあった。両方同時に欠落していないのでラジカセではあまり気にならないが、ヘッドフォンや分離の良い装置だと気分が悪くなるかもしれないので注意。

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