交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
54/04/01〜03
KING Record (LONDON) KICC-2100

 スタジオ録音なので音質も良く、アンサンブルも5種の3番中では最も安定している。だから、1種類だけ所有するというなら当盤が良いだろう。このKING盤が生産中止となってからは入手が少々困難な状態が続いていたが、2004年4月にTESTAMENTから、9月にはユニバーサル・ミュージックから再発された(ただし後者は紙ジャケの限定盤)。音質も向上しているらしいので、未所有の方は再び表の市場から姿を消す前に確保されることをお勧めする。
 解説執筆者の宇野功芳(ちなみに3番における版の呼称を間違えている)は、この演奏を以前から高く評価しており、「名曲名盤300NEW」(98年)でもただ一人推していた。今でこそ演奏、音質ともに非常に優れた3番のディスクが多数存在するけれども、フルトヴェングラーやクレンペラー、ワルターなどの有力指揮者が全く採り上げようとしなかったなど、かつてはこの曲の録音数はさほど多くなかった。(LP時代を知らないのでもちろん正確なことは判らないが、)当盤以外に古くから国内盤として出回っていたのはハイティンク&ACO(63年)、シューリヒト&VPO(65年)、ヨッフム&BRSO(67年)、ベーム&VPO(70年)位ではなかっただろうか? このうち「愚鈍の極み」は論外として、シューリヒトは89番ほどのケレンがないし、ヨッフムは騒がしく、ベームも生ぬるく感じられたに違いない。ゆえに宇野が長いこと当盤を「決定盤」扱いしていたとしても、それはちっとも不思議ではないし、むしろ当然であると思う。
 かくいう私も、当盤が58番のようにステレオ録音だったらかなり上位に置いていたと思う。トータルタイムが53分台でテンポが速いにもかかわらずスケール感があり、モノラルでしかもレンジの狭い「箱庭録音」にもかかわらず音が深い。(残響のお陰もある。)こういうのを巨匠の底知れぬ実力というのだろう。宇野は上記「名曲名盤300NEW」にて、「第1、第2の両楽章が極めて美しい。それはクナが自分の個性を抑え、古き佳き時代の香りをぞんぶんに残したウィーン・フィルの魅力を生かし切っているからだ」と評しているが、納得のゆくコメントである。(ただし、次の「どの部分にも人間の心があふれた高貴な音、そこに澄んだ叡智や神秘な瞑想が宿る」は付いていけん。)確かに当盤(および60年Altus盤)はバイエルン国立管やNDR、あるいはMPOとの演奏と比較すればオーソドックスと感じられる。あるいは「ウィーン・フィルの緩衝作用」(指揮者の個性的解釈をクッションのように吸収してしまう)かもしれない。そして、この時代のVPOの音には全く汚いところがない。他の曲を含めても、もしかするとVPOのブルックナーとしては最良のものかもしれない。

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