交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮北ドイツ放送交響楽団
62/01/15
LIVING STAGE LS 1019

 クナの3番は、時期が遅いものほどテンポが遅くなって演奏時間が長くなるという傾向があってわかりやすい。(54年4月のVPO盤は半年後のバイエルン国立管盤よりも長いが、唯一のスタジオ録音という特殊事情があるため、ここではライヴ録音のみを対象としている。)最後の2種は逆転しており、トータルタイムはラス前の当盤の方が64年MPO盤よりも若干長くなっているけれども、当盤の方が遅いのは偶数楽章だけであり、第1楽章はほとんど同じ、スケルツォは逆に64年盤の方が長い。結局のところ両盤の演奏時間の違いは誤差の範囲内なのだろう。つまらん。
 練習嫌いの逸話や拍手が収まる前の開始などから、クナについては「デタラメ」「ちゃらんぽらん」というイメージが頭にこびり付いていることも大きいが、実際に何枚かディスクを聴いてもアンサンブルの細かい所にまではこだわったりしないという印象を受ける。ところがところが、当盤では意外にも、と言っては失礼かもしれないが割合にキチッキチッとしており、そんなマイナスイメージを払拭するに十分な高精度の演奏を成し遂げている。「ファジー指揮者」のクナが振ってもビクともしないのは、さすが北ドイツ放送響である。 そういえばケレン味タップリの暴走指揮者、シューリヒトもNDRとの8番では別人のように堂々とした演奏を繰り広げていたっけ。ヴァントが長年常任を務めていたため、NDRは高性能オケという印象を即座に私は持ってしまうのだが、それ以前からしっかりした腕を持っていたのだ。だからからこそ彼も引き受けたのだろう。朝比奈が金子建志に「いまドイツで一番うまいオケですから。というより一番うまい奏者が集まっている。」 (「ブルックナーの交響曲」55ページ)と語ったということだが、その実力は一朝一夕に獲得されたものではないし、もちろんヴァント一人の手柄でもない。伝統の力というものである。
 さて、ここでもヴァントを持ち出したのには理由がある。ヴァントNDR盤のページに詳しく書いているのだが、第1楽章のピーク前の処理(当盤では11分04〜43秒)がよく似ているのだ。インテンポでズンズン進んできて11分39秒でティンパニが入ってくる所は特に瓜二つなので驚いてしまった。そして、クライマックスの迫力はヴァントを超えているようにも思う。そのように指摘したら、きっとヴァントは気を悪くしたことだろう。5番MPO盤ページに書いたように、改訂版を好んで使っていたクナを快く思っていなかったのは間違いないのだから。「クナッパーツブッシュの演奏を参考にしたのか?」と訊いたら顔を真っ赤にして激怒したかもしれない。まあ、同じオケなので部分的には似ていることもあるだろう、ということで勘弁してもらおう。
 とはいえ、テンポ設定はかなり自由であり(ただしブロック内での加減速を使わないのが、この指揮者のブルックナーの全ての交響曲演奏に共通して認められる優れた特徴)、ヴァントのようにブロック間のテンポの関係まで厳密に設定するといった構造重視型の演奏ではない。第1楽章のコーダは別テンポを採用し、実にゆったりと、堂々と締め括っている。(さすがにここでは縦の線が少々ずれているように聞こえるが、これこそクナの面目躍如というべきであろうか?)ここで、もしヴァントが最晩年に3番を振る機会があったら、あるいはここも同じようにやっていたのかもしれないと思った。彼の4番のBPO盤やNDR01年盤がそうだったから。そして、全曲を通してもテンポが92年盤よりやや遅くなってトータル60分ぐらいになり、緻密でありながら極大スケールという超名演が生まれていたかもしれない。あるいは8番00年盤(sardana)のようなヴァント&チェリのF1ハイブリット的演奏になったかも。92年盤には十分満足してるからまあいいのだが、ちょっぴり惜しくなった。いつまでもヴァントで横道に逸れていたら進まないので戻る。
 終楽章はやはりクナである。(ヴァントがこの演奏を聴いたら「楽章間のテンポ設定がメチャメチャだ」と怒ったに違いない。)拍手を引いて正味15分48秒というのは、何とチェリの87年EMI正規盤(15分04秒)よりも長いのだ。インテンポで淡々と、飄々と進めていくが、ここは逆に曲想の変わり目でテンポを変えるべきではないかという気がする。立派な演奏であることはわかるけれども、聴いているうちに少々ダレてしまうのだ。立派なラストまで間が持たない。とはいえ、所詮は「随伴効果」(←久しぶりに使ったなあ)が入っていない音盤ゆえ仕方がないといえばそれまでだが。
 最後に音質だが、第3楽章まではかなり高水準でライヴの臨場感も不足していない。ところが、(既にネット上のあちこちで指摘されているとは思うが)終楽章だけは妙にレベルが低いのが問題である。それに加えて音がかなり痩せ細っており、前段落で述べた「随伴効果」の大きな原因となっているように思う。終楽章だけテープの保存状態が悪かったため、そこだけ別音源を持ってきたのだろうか。何にせよ、ボリュームの再調節は結構面倒くさい。音質には打つ手がないが、編集ソフトを使ってトラック4だけ音量を上げたファイルを作り、青裏に焼き直そうかとも考えている。

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