交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮バイエルン国立管弦楽団
54/10/11
Music & Arts CD-257

 2004年7月、カルロス・クライバーが亡くなった。彼の数少ない録音がほとんど全て超名演であるという記述をクラシック関係の書物でたびたび目にしていたが、ならばディスクを買って聴いてみようという気にはなかなかなれなかった。ベートーヴェンの457番、あるいはブラームス4番1曲だけ収録といったトータルタイム30分台のCDなど言語道断と思っていたし、2曲収録されたシューベルトにしても、「未完成」は良いが併録の3番にはまるで興味が持てなかった。DG盤は高かったのでなおさら敬遠していたし、オペラは全くの無関心だったという事情もある。ようやくにして手を出したのは、ベートーヴェンの第5&7番というお買い得盤(トータル72分)が "THE ORIGINALS" として再発されたからである。砂川しげひさは、「なんたってクラシック」に「『運命』を飽きるほどきいて、とっくに許容量はオーバーしていたと思っていたが、クライバーの出現で、また初心に帰ることができた。アリガタイというべきか」と書いていたが、私は何故にこの交響曲がクラシックの代名詞とされるほど崇められてきたのかがクライバー盤を聴いて初めて解った。併録の7番にも大満足したし、後にBOOKOFFで買った4番バイエルン国立管盤(The CD Clubの頒布品がなぜか大量に売られていた)も、それまで地味でつまらないと思っていたこの曲の素晴らしさに目覚めさせてくれた。同じく定評のあるブラ4や「未完成」はDGから発売された追悼盤(ワーグナー抜粋も併録)で初めて聴くという体たらくだが、これらにも非常に感動した。(2003年に発売された「田園」は、一部に遺族が所有していたカセットテープも使用しているという事情もあってかとにかく音が悪いという評判で、さすがに買う気にはなれない。)クライバーによる数々の交響曲演奏は、どれも躍動感や歯切れの良さが大きな魅力だと思っていた。それが時には上滑りに聴こえたりすることもないではなかったけれども・・・・・ (例えば第7)
 この指揮者のことをクナのページに書くのはもちろん本意ではないが、それも彼がブルックナーの演奏・録音を全く行わなかったために、独自のページを設けることができなかったからである。とはいえ、何の脈絡もなしにダラダラ述べてきた訳ではなく、もちろん当盤について語るための伏線である。
 バイエルン国立管との競演である当盤は、私が所有するクナの5種の3番CDの内で最も演奏時間が短い(トータル51分ちょっと)が、テンポが速いだけでなく圧倒的にノリが良い。例えば第1楽章6分46秒から数秒間聴かれる低弦のウキウキしたリズムは他では絶対に聞かれない。実は当盤を聴いている内に、ふと「クライバーが振ったらこんな演奏になったのかもしれない」と思ったのである。(ライヴということもあるが、クライバーのベートーヴェンでもこのオケとの4番はVPOとの57番よりもノリの良さという点ではるかに上回っているし、それはNHKが放映した来日公演の47番演奏でも感じられた。) ちなみに、クライバーに演奏してほしい曲の人気投票をネット上で見たことがあるが、たしか1位は「合唱」で、ブルックナーも何曲かランクインしていたという記憶がある。挙がっていたのはやはり人気の高い後期3曲や4番だったはずだが、クライバーとはこの曲が最も相性が良いのではないか、と何となしにではあるけれど私は考えている。もはや何を言っても後の祭りだが・・・・この大指揮者の早すぎる他界がつくづく惜しまれる。
 最後に音質だが、50年代前半のライヴ録音という事情を考えると5種中で最も劣るのもやむを得ない。ただし、たっぷり入っているテープヒスからもわかるように過度のノイズ除去は行われていないという印象である。そのため、ライヴの雰囲気はVPO60年盤よりは入っている。

3番のページ   クライバー、じゃなかったクナのページ