交響曲第8番ハ短調
オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団
64/02/02
Rare Moth RM 417/8-M

 今年(2005年)1月にヤフオクに出品されるまで私は当盤の存在を知らなかった。検索したところ通販サイト2点に紹介記事が出ており、「彼のブル8は1970年のスタジオ録音が有名だが」「1970年のスタジオ録音は極端なスローテンポと終楽章の大幅なカットにより、今日ではほとんど忘れられた存在となっている」という点では対立しているものの、かなり多目のヒスノイズと散発的な会場ノイズにもかかわらず演奏の醍醐味あるいは充実ぶりが十分伝わってくるという肯定的評価は一致していた。また、某巨大掲示板にクレンペラーの青裏として是非聴いておく演奏として挙がっていたこともあり、入札に踏み切ったのだが(とはいえ出品価格=1500円以上ビタ一文出す気はなかった)そのまま落ちてしまった。
 聴き始めた次の瞬間、想像をはるかに下回る音の悪さに後悔した。モノラルと知っていたら絶対に手を出さなかった。ヒスの多さは私が所有するCD中でもトップクラス。音の欠落も多い。(今ラジカセで聴きながらこれを執筆しているが、それだとさほど気にならない。けれども、ヘッドフォンだと苦痛。おそらくカーステレオでも聴くに耐えないと思う。)40年代のフルヴェンやクナの録音以下である。当初の売価の半額以下で入手したからまだいいが、定価で買った人はさぞ地団駄を踏んだことだろう。それもこれも72年(上記2サイトの「70年」というのは誤記?)のニュー・フィルハーモニア管とのスタジオ録音を廃盤のまま放置しているアホレーベル(国内外とも)が全て悪いのだ、と責任を擦り付けたくなってしまう。
 とは言ったものの、演奏はさすがにクレである。時期的には(いずれもセカセカだった)4番2種の間に位置するが、トータル80分を超える堂々とした演奏であり、スケール感は67年の5番NPO盤にも匹敵する。特に第2楽章の遅さが際立っている。72年盤と同様にトラックタイムが前楽章より遅くなっているが、決して弛緩していない。後半2楽章も時間だけ見れば適正テンポである。未聴なのでもちろん断言できないが、最晩年の72年に指揮者は極限まで遅いテンポを採りたかったのだが、それでは持たないので不本意ながら終楽章に大幅カットを施したのではなかろうか。だから、体力、気力ともまだ充実していた頃に録音された当盤の方が完成度が高いことは十分に想像が付く。もし音質さえ良ければ「裏名盤」として相当高く評価されていたはずだ。
 などと、ここまで書いたところで、この演奏がBBC響とのスタジオ録音(59年)ではないかという疑惑が出されていることを知った。BBC響といえば、ホーレンシュタインとの9番がカラヤン&VPO78年盤(ANF Live Classics)と偽って売られていたというケチの付いたオケであるし、別ページに書いたように、クレンペラー&フィルハーモニア管による「復活」スタジオ録音盤(国内盤)が実はバイエルン放送響とのライヴだったというスキャンダルが最近(発売後2年も経ってようやく)発覚したばかりである。とはいえ、57年ケルン放送響盤がノヴァーク版で72分弱という快速演奏であるのに対し、当盤はハース版使用で約81分。もし本当に59年の演奏ならわずか2年の間にこんなに変わるとは考えにくい。本当にクレンペラーの演奏なのかさえ疑問に感じてしまうところだ。ということで、私としては表記を信用したいところだが、やはり下手なことを書くと後で嗤い者になる危険があるため、真偽問題がハッキリしてから改めてディスク評を執筆することにする。

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