交響曲第6番イ長調
オットー・クレンペラー指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
64/11
EMI TOCE-3449 → 7243 5 62621 2 6に買い換え

 トータル約55分は平均的な演奏時間であるが、第1楽章は約17分とタップリ時間をかけて演奏している。堂々とした出だしに驚かされる。前年録音の4番とは別人のようなスケールの大きさである。(まさかオーケストラ名に"New"が付けられたためでもあるまい。)かなりぶっきらぼうで、一歩間違えばやる気ないんじゃないかと感じさせてしまいそうなほど淡々と演奏している。それでいてスカスカにはならず、大変な高密度の演奏と感じさせるのは指揮者に相当な実力がなければ不可能だと思う。 第2楽章は一転して歌うような演奏。スムーズな流れが特徴で好きな人にはたまらないだろうが、ぼくは採らない。第3楽章は再びぶっきらぼうな演奏。喩えは悪いが、少々のことには動じない「ウドの大木」のようなスタイルが巨大さを演出しているのだと思う。終楽章もスケール感には不足していないが演奏時間は14分弱で、どちらかといえば速い部類に属する。部分的にはテンポを上げているからなのだが、そこでも決してせっかちにはならないし、逆に遅いところもノロいと感じさせるほどには落とさない。要は速度コントロールが絶妙なのだ。短い時間でここまでのスケール感を出す省エネ型演奏は、まさに巨匠の至芸といえる。
 私はショルティ盤から入ったお陰で(それが災いして)快速テンポによる凝縮感タップリの演奏(ヴァントやカイルベルトなど)は小粒でつまらないと感じてしまう。よって、ショルティと同じくスローテンポのエッシェンバッハやチェリビダッケなどの演奏を好んで聴くのだが、こういうやり方もあるのかと感心した。この人は60年代に6番を好んで演奏会で取り上げていたようであるが、「やはりそれだけのことはある」と納得させるだけの完成度を示している。(当盤、61年ACO盤に下記BBC響盤も加わるようだが、 この地味な曲に3種の録音が存在するというのは、この時代の指揮者としては異例である。)

おまけ
 Arkadiaレーベルから出されている海賊盤(「NPOによる67年録音のライヴ盤」と謳っている)が「レア盤」として先日ネットオークションに出品され、かなりの値が付いた。ところが、これは当盤を違法にコピーした(しかもモノラル!)とんでもない紛い物らしい。落札された方はお気の毒としかいいようがない。HUNT盤も同じ穴の狢ということである。注意されたし。
 一方、今年(2004年)の夏にはBBC響との61年ライヴ盤がTESTAMENTから出るという予告があった。「テ・デウム」が併録されているとのことで非常に楽しみにしていたのだが、残念ながら発売延期ということで未だ入手していない。(もっとも、録音がステレオかモノかは定かでなく、もし後者だったら買わない。)ところで、同レーベルからはVPOとのライヴ8枚組も出るらしい。ただし、こちらにはブル5など既所有の音源が数点混じっているので購入するか迷っている。同オケ150周年記念盤(DG)収録の「運命」「未完成」は非常に世評が高いので、是非聴いてみたいのだが・・・・吉田秀和が「世界の指揮者」にて、「これはすごかった。あとにもさきにも、あんなに大きな拡がりをもった『第五』をきいたことはないといってよい。」と絶賛していたラジオ中継の演奏というのは、これのことだろうか? → 2006年2月15日追記:そのウィーン芸術週間ライヴがユニバーサルミュージックから国内先行分売されるという知らせを受けた私は、即座にベト4&「未完成」、そしてもちろん「運命」その他という2枚を予約注文し、発売日を心待ちにしていた。本日ようやく入手した「第五」他盤のブックレット冒頭には「当ディスク所収の演奏として」という項目があり、曲目解説と共に執筆を担当した満津岡信育は「ある年齢以上の日本のクラシック音楽愛好家にとっては、とても有名な演奏である、という書き方ができると思う」というかなり回りくどい文章の直後、「というのも」以下件の吉田の批評に言及していたから、どうやら秀和センセがラジオを通して感銘を受けた演奏と同一であることは間違いなさそうだ。嬉しい。さて、その演奏を聴き終えてこれを書いているのだが、ひょっとしたらケーゲルの日本ライヴに肉迫する「マイ・ベスト」になるかもしれない、とだけ今は言っておく。

2007年10月追記
 先日、Great Recordings of the Century シリーズによる再発盤(artマスタリングによる海外盤7243 5 62621 2 6)がヤフオクに出品されていた。ブル6の前に収められた「アウリスのイフィゲニア」序曲(グルック)および「ヘンゼルとグレーテル」序曲(フンパーディンク)が愛好家の間で名演として人気が高く、前者については許光俊が「世界最高のクラシック」にて「まるで巨大な宇宙が詰まっているかのようだ」などと絶賛していた。それも気にならないではなかったが、何よりも悪名高き「●kazaki音質破壊マスタリング」から逃れるべく入手を試みたのである。開始価格300円にかなり上積みして自動入札しておいたが思いの外高騰し、もう少しで(あと30円で)ひっくり返されるところだった。危ない危ない。
 さて、既に他曲(シューリヒトの9番など)の買い換えから予想されていた通り、「歪みが2088倍凄まじい」盤よりも混濁感は明らかに減少している。このart盤にしても痩せ気味の音質という印象は否めないが、クレの唯我独尊型演奏を聴くには向いているようにも思う。(いつか5番も再発されんかな?)実はワーグナー「ヴェーゼンドンク歌曲集」(ルートヴィッヒ独唱)がカップリングされているThe Klemperer Legacyシリーズ(7243 5 67037 2 8)の方が私にとっては魅力的だったが、さすがにそちらにまで手を出す気にはなれない。(今のところは。)

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