交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団
63/09/26
SERAPHIM TOCE-1570

 トータルタイム60分46秒。その表記を見ただけで拒絶反応が出そうなセカセカテンポである。事実、初めて聴いた時には出てしまったので、当盤は長いことお蔵入りとなっていた。当サイト作成のため恐る恐る再生したが、抵抗感はあるものの何とか聴くことができた。それだけ私の人間性に幅が出てきた(←おい)、のではなく、当盤を上回るレーグナー盤など、速めの演奏に慣れが出てきたというだけである。
 改めて聴いてみると、第1楽章出だしのテンポなど、何だかヴァントのケルン盤やNDR90年盤とソックリじゃないかと思った。いや、中間部こそ当盤はだいぶ速いが、解釈自体は結構似ているという気がする。(当盤の第1楽章が16分台なのは6分46秒から加速して、さらに早足になっているからである。)ヴァントのケルン全集のブックレット(第1&2番、BVCC-8911/2)に収録されているインタビュー「ギュンター・ヴァント、大いに語る(1)」によると、ヴァントはクレンペラー(但し、晩年ではなく、病気になる前の彼)を尊敬していたということで、フルトヴェングラーやトスカニーニとともに影響を受けた指揮者に挙げていた(註)。クレンペラーの生涯の後半は、度重なる不幸(事故や病気)のため五体満足の時期は皆無だったのだが、当盤の演奏からは不健康なところは全く感じられない。それゆえ、もしかしたらヴァントが当盤の即物的とでも言いたくなるような明快なスタイルを参考にしたのではないか。(ちなみに、クレンペラーが60代に演奏した4番はもっと速く、トータル50分ちょっとというものもあるらしい。ヴァントがそこまで極端な快速テンポを真似しないでくれたのは幸いであった。)
 第1楽章の追い込みでのティンパニ乱打が典型的だが、この演奏は結構激しく、3年前の7番のように枯れていると聴こえるところは全くない。2楽章もクライマックスに突き進む推進力が7番とはまるで違う。第3楽章も若々しい。この頃は比較的体調も優れていたのだろうか。それにしても、ハース版通りにクレンペラーはトリオの主題をオーボエに吹かせているが、あそこはいつ聴いても力が抜けてしまう。第4楽章冒頭のセカセカはやっぱりダメだった。これで再度の、そして当分のお蔵行きが決定した。まだまだ修行が足りないらしい。

註:某巨大掲示板のクレンペラーのスレッドでは、最近(2004年10月下旬)こんなやり取りがあった(一部抜粋)。

 ついでにヴァントは若かりしころのクレンペラーに一番影響を受けた
 そうです。

 ヴァントがクレの影響を受けたというのは意外。
 情念型でないというところぐらいしか似ていない。
 ヴァント氏、影響受けても真似しないのはたいしたものですね。

 ケルンを振ったときのクレと、ケルンを振っていたときのヴァントは
 かなり似てますよ。

 ヴァントは「明晰な指揮をしたクレンペラーに影響を受けている」と
 述べている。クレの指揮が明晰だとはとても思えないので(笑)、
 多分クレの音楽が明晰だったと言いたかったんだろう。
 確かに、情念型でないということに加えて明晰さも共通点だと思う。
 二人とも、自分にしかできない音楽をやった偉大な音楽家だった。

 若い頃は明晰だったんでは?

ということで、ヴァントは明晰だった若い頃のクレンペラーの演奏を参考にしながら自分のスタイルを確立し、その後は独自の境地を切り開いていったということになるのだろう。クレンペラーがヨレヨレになってしまったことが最大の原因だと思うが、晩年の両者の演奏はほとんど似ていない。(クレの晩年と何となく似ていると思うのが実はマゼールである。ただし、決して一所にジッとしていない彼だけに、クレンペラーの歩んだ道をそのまま踏襲するとは思えないが・・・・・)

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