交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
イシュトヴァン・ケルテス指揮ロンドン交響楽団
64/03/13
BBC RADIO classics 15656 91712

 VPOとのブラームスの交響曲第1番(LONDON)が最初に聴いたケルテスのディスクである。しかしながら、私にはスタスタと流すだけの演奏としか聞こえず、全く感動できなかったため数日後に中古屋へと逆戻りした。次に買ったのはドヴォルザークの「新世界」交響曲。カラヤン&BPO(77年)→クーベリック&BPO→カラヤン&VPOの順に手を出したがいずれもシックリ来なかったため、(U氏に留まらず)「名盤」の誉れが高かったケルテス&VPOに白羽の矢を立てたという次第である。ロンドン響との8番他と併録された廉価2枚組(キング)を予約注文して購入した。それなりに満足はできたが、スカスカした感じの響きが気に入らず、後にセル盤を入手してからはあまり聴かなくなった。(一応残してはいるが・・・・8番他収録のDISC2は人に譲ってしまった。)実は演奏自体よりもブックレットの指揮者経歴の方が印象に残っている。「テル・アヴィヴの海岸で水泳痛溺死」とあった。それに関して札幌のSさんの掲示板に書き込んだのを憶えている。足が吊った、毒クラゲに刺された、あるいは痛風の発作が出たか、とにかく「水泳痛」に顔を歪めつつ沈んでいったとは何と哀れな最期! これに対しSさんは「水泳・痛溺死」という区切り方を採り、「さぞ痛烈に溺死したのだろう」とコメントされていたが、その解釈の方がずっと切れ味が鋭いように思う。さらに、テル・アヴィブという土地柄から(KGBやモサド等による)暗殺説を提唱された常連さんもいた。確かにゴルゴ13のような超絶技巧スナイパーなら事故死に見せかけることもさほど困難ではないかもしれない。(水面での反射や屈折を計算して狙撃したのだろうか? ついでながら、奴ならボーリングで百発百中ストライクが出せることだろう。)ならば依頼主はきっと○○○○(ピー)だったに違いない。
 このように大して評価していない指揮者だったから、ブルックナーについても完全ノーマークだった。ところが、ある日ブックオフで当盤が運悪く目に入ってしまった。ケース裏にトラックタイムこそ明記されていなかったものの、「Playng time:61′31″」から「どうせろくでもないスタスタ演奏だろう」と思った。が、安かったので結局カゴに入れた。聴いてみたら印象はやっぱりサッパリだった。当ページ作成のため久しぶりに再生しても同じである。快速テンポでも暴れ回ってくれれば何か書きようがあるのだが、全体を等しく縮めたような窮屈演奏に終始しているから、これでは脱線話の比率が圧倒的に上回ってしまうのもやむを得ない。何とか聴けるのは第2楽章だけである。英国オケのニュートラルな音色も裏目に出ている。無修正ライヴなのか演奏も粗くてトチリが耳に付くし、ティンパニが入るところの響きが汚いのも気に障る。録音もイマイチでヒスや会場ノイズも多い。これ以上続けても褒め言葉は出てこないだろうから、サッサと止めた方が賢明といえそうだ。
 なお、今回の執筆中に2003年にリリースされたTestament盤(SBT-1298)が当盤と別演奏(翌年10月、スタジオ録音?)であることを初めて知った。とはいえ、トータル61分ちょっとで当盤同様の尻軽演奏と予想されるから手は出さない。「犬」通販のユーザーレビューに「最高!」の評価を付けた人間が「重厚でテンポが遅め」「じっくり聞きたい人には最高の演奏」という間抜けなコメント(本当に聴いて書いたのだろうか?)を残しているから尚更である。

追記
 その65年録音が「イシュトヴァン・ケルテスの芸術」シリーズ(全10点)中の1枚として廉価再発(UCCD-3554、税込定価1200円)されると知り、つい出来心で予約注文を入れてしまった。5月24日に入荷予定である(トホホ)。


交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
イシュトヴァン・ケルテス指揮ロンドン交響楽団
65/10/20〜22, 25
DECCA UCCD-3541

 さて、上記トホホ盤を発売日(2006年5月24日)に生協ショップのカウンターで受け取ったのであるが、ケース裏を見て愕然とした。記載されている録音年月日(1964年3月13日)が上のBBCライブ盤と全く同じだったからである。最初に「(ダブり買いを)やっちまったか!」、続いて「騙されたあ!」と天を仰いだ。が、トラックタイムはどの楽章も微妙に違う。そこで気を取り直してiTunesにて比較再生してみた。
 その結果、両盤の間には少なくない相違点が認められた。まず当盤では会場ノイズが全く聞かれない。また終演後に拍手もないし、それを切り取ったりフェードアウトしたような不自然な形跡も認められない。よって聴衆なしの録音というのは確かなようである。この時点で64年盤(ロイヤル・フェスティバルホールでのライヴ)とは別音源であると判明し胸をなで下ろすことができた。そうなると録音場所(ロンドン、キングスウェイ・ホール)の方は合っているらしい。年月日の誤記についてはウッカリか怠慢かは定かでないが、某レーベル級の杜撰な仕事であるという非難からは免れ得ないであろう。(その点、Berky氏は抜かりなく、当盤がTestament盤と同一音源使用であると看破していた。ついでながら、帯には「ケルテスが残した唯一のブルックナー録音」とある。少し前まではこれで通用していたのだろうが、BBCライヴが96年に発売されているのだから当然改めるべきであった。そういえばネット通販2サイトではTestament盤の宣伝文句に「ケルテス唯一の録音」が使われていたから、あるいはユニバーサルの関係者が確認せずにそのまま借用したのかもしれない。何にせよメジャーレーベルにはあるまじき手抜きである。)その他に重大な差異がある。録音は当盤の方が圧倒的に優秀である。「犬」サイトのユーザーレビューにあった(「重厚」「テンポが遅め」が的外れなのは変わらないとしても、)「豪快」という形容には十分納得がいった。やはり、ある程度以上の音質を保っていてこそ、そういう演奏を堪能できるというものである。ブラスの鳴りっぷりと歯切れの良さが生み出す迫力は確かに「すばらしい」に値する。第2楽章が上出来なのは64年盤も同じだが、クライマックス以後の繊細な表現は当盤が上を行く。第3楽章も少々モタモタした感じだが、それが結構いい味を出しているように思った。
 とはいえ、両盤のトータルタイムおよびトラックタイムに大きな違いはなく、基本的には予想(危惧)していた通りのイラチ演奏である。スタスタテンポの両端楽章は全く私の好みではない。のみならず、特にこれといったケレンを示すこともなく生真面目スタイルに徹しているため、私の評価は「いい演奏だけどつまらない」にならざるを得ない。ふとここで「普通にやると無味乾燥になりやすい」などと理由を付けて4番の特殊性を殊更に強調していた某傍若無人型評論家兼指揮者を思い出した。もし最初に耳にしたのがこのような演奏だったとしたら、私も彼と同様の偏見を抱いてしまったかもしれない。想像するだにおぞましい。よってここで終わる。(←例によって投げ遣り。)

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