交響曲第5番変ロ長調
ルドルフ・ケンペ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
75/05/25〜27
 SCRIBENDUM SC 003

 4番評作成終了直後に当盤を聴いている。私は4番については少なくともトータル65分以上の演奏時間が欲しいところなので、同じく明晰さに秀でた流麗演奏ながらケンペ盤とレーグナー盤との比較では前者に軍配を上げた。ところが5番となると事情が違う。それに徹するならトータル70分前後の演奏が適正テンポであると私は考えており、当盤のように75分を要する場合は「どっちつかず」に終わってしまう危険があるし、下手をすれば重量感不足が致命的欠点になりかねないと危惧していたのだ。ところがところが、改めて聴いてみたら印象は全く違っていた。
 とにかく第1楽章の序奏がノロい。車の暖機運転のようだ。チェリ&MPOの演奏(あるいはそれを上回ったシュタインの怪演すら)を思い出す。ようやくテンポが上がってくるのは2分30秒から。メチャクチャ速く聞こえる。そして2分48秒から堂々テンポのファンファーレ。主部に入ってからもスタスタとノロノロとを繰り返す。これほどテンポにメリハリを付けた演奏はそう多くはない。(フルトヴェングラーのようにブルックナーのブロック構造自体をないがしろにした演奏はもちろん除く。)レーグナーとチェリのハイブリッド盤とでもいえようか。それも耐震構造のしっかりした曲だからこそ許されるということを指揮者はちゃんと分かっている。(再度蛇足だが、テンポいじりはブロックの変わり目でしかやってない。)そういえばティンパニの打撃が4番より耳に付くが、それが要所で重石の役割を果たしているため快速テンポでも決して浮ついた感じにはならない。必要な分の鉄筋を入れているとも喩えられようか。この大きな社会問題に関与した連中に聞かせてやりたいような演奏である(スゲーこじつけ)。
 終楽章は第1楽章と同様なので割愛。流麗タイプゆえ第2楽章の美しさはもはや絶品。第3楽章は迫力不足だが、これは仕方がない。あと今更言っても何にもならないが、チェリ&MPOの録音が当盤並の音質で残されていれば、EMI正規盤の評価は今よりはるかに高くなっていたに違いない。あの札付きレーベルが儲けるのは癪だが。

5番のページ   ケンペのページ