交響曲第7番ホ長調
ヘルベルト・ケーゲル指揮ライプツィヒ放送交響楽団
71/05/17〜28
ODE ODCL-1019(セット)

 この選集ボックスでは唯一スタジオ録音。ここでも録音のために十分な日数が確保されていたようである。8番PILZ盤の録音年月日には7日間の幅があるが、当盤は何と12日間に渡っている。実際に聴いても非常に丁寧な音楽づくりを心懸けているのが分かる。
 第1楽章の主題が2度目に出てくるところの美しさには溜息が出てしまった。マタチッチ&チェコ・フィル盤に匹敵する。PILZ盤ページにも書いたが、奏者の録音に対する意気込みは並大抵のものではなかったのだろう。どのパートも積極的に弾き、吹いているのが感じられる。それでいて決して粗くならないのだから見事だ。(やはり指揮者の統率力によるもの?)当盤でも5分30秒頃から加速が入ってしまい興醒めしかけるが、基本テンポからの逸脱は旧盤ほどは酷くないのでホッとする。16分過ぎのしみじみした部分にも胸が熱くなった。やはり確固たる基本テンポがあってこそ、そういう表現が生きるのだ。コーダは基本テンポよりやや遅く(ただし遅すぎない)始め、そのままインテンポで締め括る。そのため、非常にスケールの大きな演奏となっている。もはや旧盤とは別人のようである。
 第2楽章は旧盤同様にスロースタートであるが、重苦しくはない。モノラルとステレオという違いを差し引いても、響きは確かに違う。主題を弾く弦を柔らかい音で金管が持続音でサポートしている部分など、決して暗くならない。全体的に明るいので心が和む。旧盤が厳冬期の行軍とするならば、当盤は春か秋の森の散策といえようか。テンポの変化が抑え気味であるため、劇性ということでは当然ながら後退している。それゆえ、クライマックスにシンバルを加えなかったのだろうと私は思う。だたし、テンポが粘っこいので打楽器なしだと十分解放されない。そこでティンパニのみ残したのではないか。このバランス感覚は見事だと思う。最後のテンポもそんなに遅くしない。その必要がないからであり、これも理に適っている。
 残り2楽章についてはゴタゴタ書かない。それまで非常に均整の取れた演奏をしてきたのだから、イケイケやドラマティックにやっては水の泡。それを指揮者はちゃんと解っている。あるいは旧盤をノヴァーク版的、新盤を(アダージョでティンパニが入るものの)ハース版的と言っても大間違いではないだろう。
 私にはこの演奏が旧盤よりも格段に優れているように思われる。といって枯れてもいない。(60〜70年代といえばケーゲルはまだ壮年期であり、老化現象でテンポが遅くなったりするはずはないのは当然である。)これを指揮者の10年間の成長の結果と考えることも可能だろう。が、それ以上に前段落に書いたように、演奏スタイルをガラッと(7番向きに)変えたことが当盤で成功を収めた最大の原因ではないかという気がする。何にしても、この指揮者は同一曲を再録音する際には、敢えて前回とは違うやり方を試みてやろうという気概を持っていたようだ。もう1人のヘルベルトのように。

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