交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
ヘルベルト・ケーゲル指揮ライプツィヒ放送交響楽団
71/09/21
ODE ODCL-1015(セット)

 このセットがいいのは、479番でスタイルが大きく異なる2種の演奏を収録している点である。47番は使用楽譜が少し違うようだし、9番もテンポがかなり違う。単に録音の新旧によるモノラルとステレオの違いだけだったら、「モノラル盤なんか入れずにその分だけ安くしとけや」と文句の1つも言っていたはずである。
 さて、60年盤はセカセカだったが当盤では一転して堂々とした演奏を繰り広げている。第1楽章が約2分、その他の楽章も1分ほど長くなっており、両盤を聴いて受ける印象はヴァントのケルン盤(76年)とBPO盤(98年)ほども違う。ヴァントの両盤には22年の開きがあるが、ケーゲルの場合は半分の11年しかない。(響きだけで比較すれば、モノラルで古色蒼然たる旧盤からは30〜50年も隔たっているように聞こえる。)にもかかわらず、演奏はまるで別人のように変わっている。これを単に円熟とか解釈が深まったということでは片付けられないようにも思う。身辺に何か重大な出来事が起こったのだろうか? なお、総演奏時間は67分台でトータルタイム(69分43秒)とはかなり差があるが、当盤では終演後の拍手に加えて楽章間のインターバルもたっぷり収録されているためである。
 第1楽章は約19分だから速いには違いないが、旧盤ほどせわしなくないし、響きはまるで違う。冒頭のホルンと弦のトレモロによる進行を聴いた時点で、もう「美しい」と溜息を吐きたくなってしまう。とにかく弦が輝かしくて美しい。ティンパニが遠くてこもり気味だが、それもプラスに作用している。テンポや響きはだいぶ違うが、この美しさはチェリビダッケの演奏と似ているように思った。先述したように、コラールのピーク(10分33秒)でティンパニが鳴る。旧盤とは異なり、ここを強調しようという意図があったのは明らかである。再現部の立ち上がりのテンポが提示部より若干遅いのも旧盤にはなかったことである。
 第2楽章は旧盤同様に遅いが、明るい響きのため重苦しくなっていない。ただし、金管の調子っぱずれのような音は少々下品に聞こえなくもなかった。下品が言い過ぎなら場違いに訂正するが。このケーゲルにしては異様に明るい響きは何となくであるがヨッフム&ドレスデン盤に近いように思った。第3楽章の印象も大きく変わっている。テンポを小刻みに変え、あたかも踊るようだった旧盤とは異なり、極めて正統的な演奏になっている。風格が出てきたとも言えようか。
 その風格は第4楽章で最も顕著に聴かれる。60年盤と同じくテンポは揺らすけれども、基本テンポが遅くなったためにスケール感は格段に大きくなっている。ティンパニが抑えられていることもあって響きの重心がやや上ずっているのは惜しまれるが、そのお陰で開放感があるし、パートの分離が良いために楽器の絡みがちゃんと聞き取れるのも嬉しい。ラストがあまりにもぶっきらぼうだった旧盤に対し、こちらは実に堂々たるエンディングで締め括っている。これでなければ大曲を聴いたという満腹感は味わえない。
 実は当盤にしても演奏自体は大したことないのではという気もし始めているのだが、60年盤との聴き比べはまさに「暗と明の対決」で面白かった。もし、この後にもう1つ違う録音を(それも3番LGO盤と同様、80年代後半に)残してくれていたら、あるいはヴァントの「ラスト・レコーディング」のように、それまでと全く違う境地に立った演奏が聴かれたかもしれない。そう思うと非常に残念である。(いつか発掘されないだろうか?)なお、ケーゲルの4番では他に60年11月の演奏がWeitblickから出ているようだが、どうやらモノラル録音らしいので購入することは多分ないと思う。(2005年5月追記:HMVで激安で売られていたのを見て、出来心で手を出してしまひました。)

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