交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」
ヘルベルト・ケーゲル指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
86/03/02
WEITBLICK SSS0042-2

 この演奏については許光俊がHMVサイトの連載「言いたい放題」で見事な解説を書いていたので、それを読まれたら良いだろう。終わり。
 ・・・・では身も蓋もないので力不足ながら書いてみる。とはいえ、やはり許の解説から一部引き、それを足がかりにさせてもらう。

 珍しくゲヴァントハウス管弦楽団を指揮したブルックナーの第3番は
 1986年の演奏で、かつてケーゲルの特徴であった鋭利・酷薄は身を潜め、
 柔らかい情感表現に傾斜している。

来日公演のベートーヴェン「田園」「運命」他ライヴ盤の解説には、ケーゲルの1年後の自害を予見するかのような文章が少なからず出てくる。それに多分に影響されているのだろうが、「田園」のラストとアンコール曲の「G線上のアリア」では、彼岸を想って微笑んでいる指揮者の姿が目に浮かんでしまった。しかしながら、当盤が録音された86年というのは、指揮者の心境に重大な変化をもたらすようなあの事件が起こる3年も前である。ベルリンの壁崩壊など夢物語以前の荒唐無稽に過ぎなかった。当然ながら指揮者も現世のことで頭が一杯だったはずである。Altus盤とは違う視点で論じなければなるまい。
 さて、許の「鋭利・酷薄は身を潜め、柔らかい情感表現に傾斜している」だが、概ね同意する。ただし、それが指揮者の演奏スタイルの変化だけによるとは思っていない。同じ指揮者によるほとんど同一時期の録音でも、オケの音色とホールの音響、さらには録音やマスタリング機器の違いで受ける印象が大きく異なってしまうからである。(このページの執筆を始めるまで、私は当盤がゲヴァントハウス管の演奏であることをすっかり忘れていた。)とはいえ、全楽章で演奏時間が少なからず伸びたことは解釈が8年前と変わったことを意味するし、それが適度な範囲内であるためスケール感が拡大しているのは間違いない。精密なアンサンブルは78年盤と同じなのだから鬼に金棒だ。
 私がまず感じたのは旧盤より激しさが強化されていることである。ダイナミックレンジも広くなっている。(録音はデジタルなのか超優秀で、ケーゲルのブルックナー中ではダントツである。)特にティンパニの強打が非常に効果的である。第1楽章の2分20秒〜24秒までの少しテンポを落としての強奏、直後の2分50秒頃〜3分00秒までの迫力には度肝を抜かれてしまった。だから、しんみりしたところが余計に優しく聞こえる。(許が「仏のように寛大に微笑む演奏」と評したように暖かさ、柔らかさも感じるが、先述したような物理的条件によるものかもしれない。)その分、厳しさという点ではやや後退していると感じた。よって、第1楽章のクライマックスと第3楽章だけは旧盤を採るが、それ以外は新盤に軍配を上げたい。特に許が詳しく書いている第2楽章は新盤の圧勝である。余談だが、ODE盤では全く聞かれなかった終演後のブラヴォーが男の声で1発入っている。これは民主化の兆しだろうか?(←何を大袈裟な)

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