交響曲第5番変ロ長調
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウィーン交響楽団
54/10/02
ORFEO C 231 901 A

 1954年、カラヤン46歳時の録音である。ディスクを入手する前は、何となくであるがトータル・タイムが70分台の半ば(75分前後)ぐらいではないかと思っていた。ところが実際には79分34秒(終演後の拍手約40秒を含む)で、22年後のBPOとのDG正規盤と大して変わらない。トラックタイムを比べてみると、両端楽章は54年盤が、中間楽章は76年盤が長くなっている。(ただし差が大きいのは第2楽章だけである。)この演奏については8番57年盤について書いたのと同じことが当てはまる。壮年期にもかかわらず、往年の巨匠のような堂々とした演奏を繰り広げているのだ。
 第1楽章1分11秒からのファンファーレはカラヤンらしくない激しさに驚いてしまった。1分36秒からはさらに激しい。(2分22秒からが少し速いのは指揮者の血気溢れる様を表しているようだが、)3分48秒からの第1主題提示部の巨大さはどうだ。(残念なことに、ここでリミッターによる調整が入って興を削がれてしまうのである。何せ録音が古いだけにテープ損傷によるノイズや欠落も耳に付く。)途中をすっ飛ばして恐縮だが、コーダも激しくてスケールは途方もなく大きい。いちいち挙げていったらキリがないが、終楽章の1分40秒〜3分03秒までも凄かった。弦のゴリゴリした音に圧倒される。流麗さなどそっちのけである。ここも巨人の歩みと呼ぶに相応しい。クナッパーツブッシュ以上に相応しいと思う。一体何人の評論家がブラインドでカラヤンと判別できるだろうか?(それゆえ、ここでもアンチ・カラヤン派は「この時代のカラヤンは良かった。だが・・・・」と言うかもしれない。)その後いったんは駆け足になるが、3分42秒からはテンポを落としてしみじみと聞かせる。他にも静かな部分では、後に「耽美派」と称されることになるカラヤンの美意識が時折顔を覗かせる。同楽章のエンディングについては・・・・もう繰り返さない。
 このように、「一本調子」というカラヤンに対する否定的な評価が当盤では全く当てはまらない。メリハリが非常に利いている。いいものを聴かせてもらった。返す返すも貧弱な録音が惜しい。「これがステレオ録音で音の広がりがあったらどんなに凄いだろう」と思ってしまったが、こればっかりはどうしようもない。解説書をめくっていたら、執筆者のところに "Gottfried Kraus" の名があったのでハッとした。はたしてデジタル・マスタリングはクラウス&アイヒンガーの最強コンビだったが、ここでも彼らによって名盤が破壊されているのかは判らない。(なお、当盤のVSOの音色にはちっともウィーンらしさを感じない。8番57年盤のBPOと似ている気がするのだが、これも当時のオケ特有の「インターナショナルな音」なのだろうか? それとも違いを聞き分けられない私の耳が鈍いのだろうか?)
 5番のライヴ正規録音では69年8月27日のザルツブルク音楽祭のものがあるが、Arkadia(旧HUNT)盤はモノラルで、後に出たAndante盤はステレオらしい。ただし、ブル5のためだけに高価な4枚組を買う気はしない。他の収録曲に興味がないし、同レーベルには9番76年盤の音の悪さで懲りているからである。

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