交響曲第5番変ロ長調
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
76/12/11
Deutsche Grammophon F66G-50397〜8

 「カラヤンの5番は入門用に最適」というような文章をどこかで見かけたことがある。確かその前には「4番はダメだが」のような記述が置かれていたと記憶している。私も同感である。彼の4番は非常にアクが強い(特にDG盤、該当ページを参照)けれども、5番は何のケレンもない堂々とした演奏である。ただし、この5番を単品で入手するのは現在では難しいと思う。(もし再発盤が出るとして、はたして80分強のこの演奏が1枚に入るだろうか? トータル81分台というディスクもあるので物理的には不可能ではないのかもしれない。ただし、ビット幅を狭くすることにより長時間演奏を記録できるようになったのも痛し痒しである。例えばDGパノラマシリーズ2枚組のチャイコフスキーでは、DISC2が「ロメオとジュリエット」と「悲愴」のカップリングになっているが、私のカーステレオでは正常に再生できない。)5番に限らずカラヤンのブルックナーDG盤は一部を除いて入手困難(生産中止?)となっているようである。2〜3種の重複で済むのなら、(コツコツとバラを集めるより)いっそのこと全集を買ってしまった方が良いと思う。(ちなみに、全集をいきなり買うのは薦められないけれども、強いて「ファースト・チョイス」を挙げるなら値段が多少張ってもカラヤン盤である。4番を除けば比較的「まともな」演奏だからである。安価な全集のうち、スクロヴァチェフスキとヨッフムは結構アクが強いし、インバルやティントナーは一部で初稿を使用している点が引っかかった。ヴァントのケルン全集は「玄人好み」なので、後の楽しみに取っておかれたら良い。)
 と書いていたところ、最近(2004年5月)、HMVのサイトで再プレスされた輸入盤全集が売られるようになった。1枚1000円を切っているのでまずまずの価格といえる。それはさておき、そのページでは販売サイド、購入サイドともに5番を高く評価しており、中でもティンパニの凄まじさを強調していた。許光俊が「ベルリン・フィルのティンパニ奏者は、カラヤンに要求されるまま強奏しているうちに難聴になってしまった」などと書いていたが、当盤を聴くとそれにも肯かされる。ただしティンパニだけではない。ブラスも凄い。地響きと輝かしさが同居しているような(←書いてる自分もようわからん)音色とでも言ったらいいか?
 まず第1楽章の1分24秒に現れるフォルティッシモの「ドーーーーミソドーッミソドーッミソドーッ」は尋常ではないド迫力である。2分08秒にも再び凄まじいばかりの勢いでファンファーレが30秒ほど鳴る。これらに比肩しうるのは(未入手ゆえ)何となくであるが、バレンボイムの旧盤(シカゴ響)だけではないかという気がする。(ショルティ盤は予想していたほどではなかった。)こういう風にデカくなるところでは徹底的にデカくするため、ブラスとティンパニしか聞こえない箇所が頻出する。だから「構造」に対する配慮が足りないと切り捨ててしまうこともあるいは可能であろう。が、「構造」が全交響曲中もっともガッチリした曲だけに、多少は無視しても何とかなってしまうのかもしれない。この点についてはヴァント盤のページでも「耐震構造」などと書いているし、今後執筆予定の「構造って何やねん?」のページでも生物学的視点から述べるつもりでいる。要はこの曲がカラヤンの演奏スタイルと相性ピッタンコの曲なので、全集中で最も高く評価されるということなのだろう。
 ついついヴァント盤を持ち出してしまったが、やはり同じオケを振った両盤を比較しないわけにはいかないだろう。演奏の完成度という点では全くの互角。音色の輝かしさではややカラヤン盤が上回るだろうか。ただし、第1主題提示部が鳴り終わった後に感じられる「音の深さ」は、ヴァント盤ではそれこそ底知れぬ沼のようであるが、当盤(3分35秒頃)はそれほどでもない。その差により私はヴァント盤に軍配を上げる。私以上に「深さ」に重きを置く人は当盤の評価をもっと下げるだろうし、逆に派手な鳴りっぷりを好む人は最上位に置くかもしれない。
 カラヤンの5番が当盤1種類のみというのは少々寂しい。が、ウィーン響とのOrfeo盤、VPOとのザルツブルク音楽祭ライヴのArkadia盤はいずれもモノラル録音らしい。(Andanteはステレオかもしれないが高い。)別人かと聴き紛うほど異常に燃えるというカラヤンのライヴを良い音質で聴きたいものだ。今のところsardana等のCD-Rでしか入手できない「リアル・ライヴ」音源が将来正規盤としてリリースされる日を心待ちにしている。(2004年8月追記:ネット通販のセールでOrfeoのディスクが税込1390円という特価で売られていたためVSO盤を購入した。2006年11月追記:先述した80年録音の青裏、sacd-226/7をヤフオクでゲットした。)

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