交響曲第8番ハ短調
オイゲン・ヨッフム指揮バンベルク交響楽団
82/09/15
Altus ALT-022/3

 第1楽章の8分過ぎなど、以前は走り出していた部分もジックリと腰を落ち着けており、明らかに晩年の演奏スタイルであると分かるような堂々たる演奏を繰り広げている。浅岡弘和が「外見こそヨボフムでもその精神には毫も衰えが見られなかったのである」と書いているが、アンサンブルに乱れも緩みもなく、その言葉には納得させられる。バンベルク響のブルックナーは他にシュタインとホルライザーの4番を所有しているが、それらも立派な演奏で、良く言われているように「渋いけれども実力のあるオケ」という定評にも納得させられる。
 私が所有するヨッフムの8番としては唯一2枚組でトータル81分を超えている。8番の目次ページに書いたように、私にとっての標準テンポに近いため、単純に考えれば当盤が最も評価が高くなっても悪くないはずなのだが、実際には2年後に録音されたTahraのACO盤に大きく遅れを取っている。要はチェリのディスク評で触れた「随伴現象の欠如」ということに尽きるかもしれない。ノイズは少なく録音としての水準は高いのかもしれないが、ライヴの雰囲気はあまり感じられない。(ティンパニ音が時に埋もれてしまっているように聞こえるのは大いに不満だ。)Altusレーベルのディスクでは、他にマタチッチ&N響による8番75年盤にも同じ不満を感じた。(DENONの84年盤よりはだいぶマシだが。)逆にムラヴィンスキー&レニングラードによるチャイコフスキー5番77年盤には臨場感は入っていたが、車内で聴いてヒスノイズの多さに仰天した。今のところ国内音源によるディスクでそれなりに満足できたのは、ケーゲル&ドレスデン・フィルの来日公演だけである。(海外音源であるリヒターの4番は悪くなかった。)
 解説執筆者の山崎浩太郎は、この演奏会を巨大なNHKホールの3階で聴いていたため、終演後に熱狂していた客の輪に自分が入れていないことを感じ、演奏についても「よくわからなかった」という思い出だけが残ったけれども、このディスクを聴いてようやく「堂々とした、ふかぶかとうねる名演」であることが理解できたという。ところが私は当盤を何度も聴いたけれども、彼とは違って聴後に残ったのは疎外感だけである。やはり「随伴現象」の入っていないディスクでは、実演を聴いたことのあるなしが決定的なのだろう。「是非ともCD化して欲しいものだ」と述べていた浅岡は、このディスクを聴いて満足しただろうか?

8番のページ   ヨッフムのページ