交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
オイゲン・ヨッフム指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
65/06
Deutsche Grammophon 469 810-2(全集)

 「テンポが寸詰まり」というネット評があったが、SKD盤と比べてとくにトータルタイムが短いということはないし、実際に聴いてもそうは感じなかった。クレンペラーやレーグナー等、もっと極端なセカセカテンポの演奏も他にあることだし。私が所有するBPOによる4番としては、クナの44年盤に次いで古い演奏ということになる。(フルヴェン盤はVPOとの51年10月ライヴしか持っていない。)カラヤンの4番は70年盤、75年盤とも相当に「変態チック」だから、古い時期のBPOによる比較的まともな演奏が聴ける当盤は貴重である。とはいえ、暴れん坊ヨッフムだけにやはり一筋縄ではいかない。第1楽章も立ち上がりこそ普通だが、3分38秒から一気に加速する。4分過ぎでロケットの2段目に点火、さらに盛り上がる。が、4分55秒でひとまず締めが入り、一転しんみり演奏へ。まるで劇画のような演奏だ。まあ、ここまでの展開はSKD盤から予想されていたのだが、中間部コラールにはさすがに仰天した。9分50秒で突如クレッシェンド、そしてティンパニに加わる超ドラマティックなピークがやってくる。(そんな経験はないけれども)あるいは車を運転していたところ、いきなり目の前に巨大な障害物が飛び出してきた時と似ているかもしれない。「こんなん、どーやって避けろっちゅーんや」と言いたい気分である。展開部以降も暴れ回ってくれるが乱れは全く聞かれない。さすがはBPOだ。第2楽章はやはりこの重い響きがしっくりくる。例によってハ長調ピークの少し前から尻軽テンポになるが、この音色ならばやらない方が良かったはず。「止めとけ」といってもヨッフムはやるだろうが・・・・その半面、祝祭的なスケルツォにはSKD盤の軽快な音色がよく似合う。終楽章も当然ながら劇的演奏だが、冒頭の盛り上がりの迫力は、金管主導で威圧する感じのSKD盤よりもオケ全体で作り上げた音の塊で聞き手を押し潰すかのような当盤が上だ。前者を二次元的とするなら後者には深み、奥行きを感じるのだ。なお1分24秒の爆発直前で一瞬間を置く。10年後のACO盤&SKD盤でもやっているが、、当盤の方があざとい。ただし、9番では気に障って仕方がないこの処理も、4番では説明不可能だが許せてしまう。シンバルのクラッシュにも品があり異物混入感はない。第1楽章ほど極端なテンポ変更がないだけに、この楽章が私としてはもっとも聴きごたえがあった。激しい部分も「面白い」ではなく「美しい」と感じることができたから。本当にこの時期のBPOは充実しきっており、溜息が出るほどに上手くて美しい。最後の「ジャン」の前にタメを作るのもヨッフム流。減速せずに締め括るヴァント流の方が私は好きだが、着地がピタッと決まっているから文句は付けない。
 演奏自体の激しさでは当盤がSKDを明らかに上回っているように思うが、演奏精度は断然上だし重厚な響きのお陰で騒がしくはならず、意外とスンナリ聴けてしまった。ところで、上の締め括り方で思い出したが、アマチュア(学生)オケの技量不足にも原因があるとはいえ、見事なまでにラストを崩壊させてしまった指揮者のことを思いだした。いうまでもなく宇野功芳のことである。彼は「ロマン派的な要素の多い4番は普通に演奏すると無味になりがち」などとどこかに書いていたはずだが、当盤を聴いたことはなかったのだろうか? 私には時に飄々、悪く言えばやる気なさそうに聞こえるクナよりも、正攻法に徹し、かつ無味乾燥なところなど全くない当盤はよっぽどお手本にすべき演奏だと思われるのだが。(残念ながら日大管盤には当盤と共通するようなところは全く思い浮かばない。)

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