交響曲第8番ハ短調
ネーメ・ヤルヴィ指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
86/11/17〜19
Chandos CHAN6623(2)

 ヤルヴィについては忘れられない思い出がある。かつてNHK-FMが金曜14〜16時に放送していた「渡辺徹のおしゃべりクラシック」でのこと。相方は初代の熊本マリか次の伊藤恵だったと思うが、読み上げていたリクエスト葉書の終わりの方に「指揮者はたしか『メーメーヤギ』という名前ではなかったかと思います」という一文があり出演者一同、そして聴いていた私も爆笑してしまった。とはいえ、クラシックにさほど深入りしていない人ならば、そのように聞いたとしても決して不思議はないだろう。
 当盤の存在を認めたのは全くの偶然である。既に述べているが、アマゾンのギフト券(1000円分)があっても特に欲しい品がないのでとりあえず "bruckner" をキーワードとして探していたら何ページ目かに出てきたのである。その時は2000円弱だった。同じ品が「犬」では3000円以上(ただしマルチバイ割引になれば2800円ほど)で売られていたため注文に踏み切った。(後に値上がりして最終的に¥2,169円となったが、ギフト券をさらに1000円追加したので下3桁分だけが銀行口座から引き落とされることになった。それはともかく、注文確定後に一方的に価格をつり上げるのはおかしいじゃないか! 少額でも売買の契約を結んだことに変わりはないのだから。もちろん下げる分にはナンボでも構わん。)
 この指揮者には「何でも屋さん」というイメージがある。実際CupiDで検索してみると「よくもまあ」と言いたくなるほどレパートリーは多岐にわたっていることが判る。とはいえ、エストニア出身ゆえ三大Bの交響曲のような独墺系のいわゆる「メインライン」よりは、どちらかといえば北や東の音楽を得意にしている。そんな先入観を何とはなしに抱いていた。それまで私が持っていたのもグリーグの「ペール・ギュント」(ハイライト)およびカリンニコフの交響曲第1番(おまけにグラズノフの管弦楽曲2曲)という2枚であった。なので、ブル8を録音していると知って少々意外の感を受けたのも無理はない。しかしながら、複数サイトで目にすることのできる当盤評はいずれも好意的である。つまり「隠れ名盤」としての地位を確立させているといえる。ゆえに入手前から期待していた。果たしてそれは裏切られなかった。
 まず基本テンポが良い。2枚組でトータル84分半という恰幅の大きい演奏。次に使用楽譜が良い。もちろんハース版である。そして残響が良い。ブックレットには "All Saints' Church" とあるが決して「風呂場録音」にはなっておらず、まさに「ええ塩梅」である。ベートーヴェンやブラームスなら許せても、やはりブルックナーにはある程度音に潤いが欲しい。誰がトスカニーニ&NBC響のようなパサパサ音質で聴きたいと思うだろうか?
 これだけの条件をクリアしているのだから高評価は約束されたも同然である。第1楽章終盤(14分41秒〜)のカタストロフには感銘を受けた。特定のパートが突出することなく、実にうまく溶け合っている。ヴァントの93年盤のようにラッパが襲いかかるごとく鳴ったりするのも決して嫌いではないけれど(ヨッフム&SKD盤のアイーダ・トランペット風咆吼は却下)、当盤の響きは地味ながら滋味がある。(←使い回しだな。)ロッグのオルガン編曲版ページの終わりでも触れた(作曲中のブルックナーの脳内で鳴っていたという)「理想のオルガン」というのはこんな音だったのではないか。そんなことを考えてしまった。
 以降もケチの付けどころが全くといっていいほど聞かれなかったので上位進出は確定的であるが、唯一惜しまれるのが第1楽章中間部のイラチ加速(9分台に2度)である。(何でみんなこれをやりたがるのかな? 訳わからん。全く必要ないことをクナがとっくの昔に証明しているというのに。)それさえなかったら初登場でトップ3入りだったのに。ザンネーン!(なお、フィルアップのレーガー「ベートーヴェンの主題による変奏曲とフーガ」はようワカラン曲だった。元のテーマがどっから来ているのかも。情けないなぁ。→ 検索してバガテルOp. 119-11であると判った。)

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