交響曲第7番ホ長調
ニコラウス・アーノンクール指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
99/06
Teldec 3984-24488-2

 冒頭のブルックナー開始からして演奏をスポイルしているような弱音(by 功芳センセ)なので、この時点で「ダメ」の烙印を押したくなったがガマンして聴き進めてみる。1分7秒の弦がノン・ビブラート気味である。発売当時には斬新な演奏としてそれなりに評価されたのかもしれないが、それを徹底させたヘレヴェッヘ盤が出た今となっては、いかにも中途半端という印象しか受けない。その直後、1分40秒過ぎからいきなり音量を上げるという例の虚仮威し作戦に出たけれども、もはやそんなマンネリ攻撃は通用しない。アホなテンポいじりをしないのがせめてもの救いと思って聴いていたが、コーダでやってくれた。来月取り上げる予定の指揮者よりはマシであるものの、興醒め効果しかない尻軽アッチェレランドは大いに気に障った。
 「究極! クラシックのツボ」にてアーノンクールのページを担当した鈴木淳史は、「ブルックナーの『交響曲第7番』、ドヴォルザークの『交響曲第8番』、これらをこれほど情感豊かに歌い上げた演奏を私は知らない」と書いていた。(ちなみに、後者は許が「こんな『名盤』は、いらない!」で採り上げ、「数多いアーノンクールの録音のなかでも、解釈の密度においてとくに念入りなものの一つ」などと評している。)しかしながら、比較的速めのテンポで進められる当盤からのどこからも「情感」などというものは聞かれない。特にそれを込めるなら何を措いてもというべきアダージョがアッサリ気味なのだから、私には全くもって不可解である。(アッサリは既に0分29秒〜の「ドレミ」の刻み具合からして明らかである。6分30秒〜や13分57秒〜も同様で、長調部分のスタスタは言わずもがなである。)浅岡弘和が朝比奈のブルックナー演奏を評する際に好んで用いる「造形」と匹敵するほどに。ちなみに当盤ではクライマックスに打楽器は参加しておらず、ハース版を採用している模様である。アッサリ風味のアダージョには相応しいといえるが、翌年の8番録音ではノヴァーク版を使っているから一貫性のなさは一応指摘しておく。後半楽章は万年不良指揮者のスタイルに合っているようで出来は悪くない。

おまけ
 本文でノン・ビブラート奏法について触れたが、ヘレヴェッヘ盤と大きく異なるのは弦が全く美しく聞こえないことだ。目次ページで述べたアーノンクールの特徴そのままのようなトゲトゲしい響きである。漫画「美味しんぼ」に周大人が初登場した際、奢って手抜きをするようになった料理人の東波肉(とんぽうろう=豚バラの角煮)を試食して「煮込みが足りない。ゴリゴリした舌触りだ。」とコメントしていたのを思い出した。これに対し、ヘレヴェッヘの7番はまさに舌の上でとろけるような上品な響きである。
 周知のようにVPOはこの後ラトルとも手を組んだ。が、やはり音が汚いと聞こえてしまうのは同様である。(実はラトル盤のページ作成まで待てなかったので、この頁でVPOの音色について書くことにしたのである。)2000年録音の「運命」(チョン独奏によるブラームスVn協とカップリングされた盤で全集録音とは別演奏)を聴いたが、最初の数回こそなかなかに面白い演奏と思ったものの、間もなくゴリゴリ弦を耳障りと感じるようになって聴く気が起こらなくなった。後にNHKで放映された来日公演時の「第九」もちっとも良いとは思えなかった。音の汚さに留まらず、ヘンテコとしか言いようにないテンポ設定に落胆させられたからである。最新の研究成果を採り入れているのか何だか知らないが、古楽奏法によるベートーヴェンならノリントンの方がはるかに上出来である。
 私はシュミット=イッセルシュテットやショルティ指揮によるベートーヴェンの交響曲CDを聴いてVPOの美しい響きを今更ながら見直し始めているところである。実力低下が叫ばれて久しかったオケであるが、もしかしてアーノンクールとラトルによって完全にトドメを刺されてしまったのではないか? これを立て直せるだけの人材がいるようにも思われない。とても残念なことである。

追記
 許光俊の近著「オレのクラシック」の目次を青弓社サイトの新刊紹介ページで見たが、ラトルが「オレが認めない指揮者たち」のトップに名を連ねていたので驚いた。しかも「浅薄きわまりないお調子者」として。たしか「クラシックを聴け!」では「現役指揮者がほとんど壊滅状態の中、もはやラトルに期待するしかない」などと高く評価され、「世界最高のクラシック」でもかなり肯定的に書かれていたから、随分と株を下げたものだ。とはいえ、そうなったのはむしろ当然という気がする。近年のラトルの演奏の酷さは、許にとっても相当腹に据えかねるものであったに違いない。(2005年11月追記:「犬」サイトの「言いたい放題」にて以下のように酷評されているのを見つけた。「最近の音楽家はインチキくさい連中が多い。ラトルみたいに毎回衣装を変えて気をひこうとするコスプレ音楽家など、とうていテンシュテットの足下にも及ばない。」)

7番のページ   アーノンクールのページ