交響曲第8番ハ短調
ベルナルト・ハイティンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
05/02/18&20
RCO 05003

 ブルックナーの新音源発掘(→正規盤リリース)を心待ちにしている指揮者といえば、やはりヴァントを真っ先に挙げないわけにはいかない。(チェリはあらかた出尽くしたであろう。)既にあちこちに書いたように、ミュンヘン・フィルおよびベルリン・ドイツ響との演奏会記録である。今年(2005年)発売が予定されているNDRとのシュレースヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭ライヴは未所有音源が多いが、映像ソフト(DVD)のためCDより割高なので購入するか迷っている。
 現役指揮者では何といってもハイティンクだ。HMVの発売情報を見て即注文を入れた。VPOとの録音以来約10年ぶりだが、あれはVPOの美しさを前面に押し出すために指揮者が一歩身を引いたような演奏で、ハイティンクのブルックナーとしては少々異色演奏だと思っている。よって、芸風の違いを確認するためには24年前のACO盤と聴き比べる必要があると判断した。
 それにしても不思議な指揮者である。細かいところまでキッチリ詰めているようには聞こえない。けれども全然粗くなっていないので、スケールの大きさというプラス面だけが発揮されてくる。(ただし、第1楽章終盤のカタストロフで繰り返し連打されるティンパニのうち最後の2回は、あまりに張り切りすぎたのかフライング気味だ。惜しい。とはいえ、明らかな傷というのはここ位である。)念入りにリハーサルを行っていても本番ではある程度オケの自発性に任せているのだろう。それが時に「自然体」や「指揮者の存在を感じさせない」などと言われてきた所以だと思う。こういうのは誰にでもできる技ではない。最近某掲示板に「どうでもいい指揮者」という投稿があった。おそらくは煽りが目的なのだろうが、本気で言っているとしたらよほど耳の鈍感な人間に違いないと私は気の毒に思ってしまう。
 旧盤と比べてトータルタイムもトラックタイムも極端に変わったということはない。この位のテンポが適切だと指揮者は考えているのだろう。第1楽章の1分42秒以降は旧盤と比べるとかなり抑制気味である。ここを聴いて「なんという軟弱さであろう」とか「必然性が感じられない」などと叩きたがる評論家がいるかもしれないが、そんな勘違い連中は嗤い者にしておけばよい。盛り上げるところはちゃんと盛り上げているのだから。要はピークの分散を嫌ったということだろう。解釈は基本的にそのままで読みが深くなったのである。また、表現が全体的に濃厚になったという印象も受ける。例えば第1楽章8分58秒以降の足どりが旧録以上に緩やかになったため、ゆとりが感じられるとともに三次元的奥行き感も増している。(途中2箇所で早足になるのは私の好みではないが、以前からこうなのだから確信を持ってやっているのだろう。)第2楽章では、トリオ副主題部のしみじみとした味わい、あるいは再現部14分20秒過ぎのティンパニの暴れっぷり(提示部は普通)、こういった外連は以前の録音からは聴かれなかったものだ。楽章単独ではベスト演奏に挙げたい。アダージョではクライマックス直前での力の溜め方が見事だし、終楽章も再現部の巨大な表現に圧倒される。ライヴということもあるだろうが、この演奏からは指揮者のアク(個性)がかなり感じられる。(ヴァントはインタビューにて「聴き手に指揮者の解釈を感じさせてはいけない」などと語っていたが、それも程度によりけりではないかと私は考えている。)「自己主張するなどハイティンクらしくもない」と逆説的には言えるかもしれないが・・・・とにかく、彼はいつの間にか(私が知らない間に)大きな変貌を遂げていた! 緻密一辺倒の演奏からだんだんとアソビ(余裕)の出てきたヴァントとは少し異なるが、着実に円熟過程(大巨匠への道)を歩んでいることが確認できたのは嬉しい。現在のところメジャーレーベルとの契約は結んでいないが、年に1度ぐらいのペースで自主制作による新譜を出してもらえれば十分である。「Naxos や Arte Nova でもいいから契約汁!」という書き込みを見たことがあるが、そこまでしてもらわなくてもよい。安価で出るのはありがたいことに違いないが・・・・なお、音量レベルは低めに設定されているものの録音は非常に優秀。81年盤と比べたら丸い感じであるが、いかにもライヴらしい音といえる。
 ということでディスク自体に文句は付けないが、商品として見ればいくつか問題がある。まず凝った造りのケースは割れてしまった場合に困る。(ブックレットは通常ケースに収まるが、裏紙(?)は上下を切らないといけないし、入ったとしても見栄えはヒジョーに良くない。)次はイチャモンだが、カップリング曲もないのに第1〜3楽章がDISC1、第4楽章のみDISC2という最悪の分割方法を採っている点(チェリ93年盤ページ参照)で、某掲示板でもクレームが出されていた。そして最も強く批判したいのがブックレット。最終ページには正面から撮影したRCOの全体写真が掲載されている。が、指揮者は何とハイティンクではないのだ!(「誰やあれ?」と思ったがヤンソンスらしい。)更に酷いのが表紙裏にある彼の上半身写真。あまりにも酷すぎる。リハーサル時のものだろうが、目を開いているのか閉じているのかも判らない不気味な顔である。あんなのを採用する制作者の神経(美的感覚)を疑わざるを得ないし、それを使わせている(以下略)

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