交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」
ベルナルト・ハイティンク指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
88/12
PHILIPS 422 411-3

 この演奏を初めて聴いた場所は日本国内ではない。当サイトの他のページにも書いているが、BBCワールドサービスで毎週木曜夜(GMT23:15〜だったと思う)に放送されていた "Music Review" という番組の新譜紹介コーナーだった。早口の英語は十分聞き取れなかったが、「ハイティンクがウィーン・フィルとブルックナーの第3交響曲を新たに録音し、それが珍しい版を使っている点で注目される」ということは何とか理解できた。で、第3楽章が冒頭から流れた。私が3番のディスクとして唯一所有していたベーム盤とさほど違っているようには思えなかった。(実はスケルツォ主部の終わり方が第3稿とは全く違っていたのだが、もう長いことブル3を聴いていなかったので忘れてしまっていたのである。)ところが、その後で事件は起こった(←大袈裟な)。ニ長調による「チャッチャチャッチャ、チャカチャカチャカチャカチャカチャカ」という聴いたことのない旋律が流れてきたのである。「へんなのー」と思わず吹き出してしまった。が、結局それだけである。その番組が終わったらすっかり忘れてしまった。
 その後かなり経ってブルックナーのCDを集めるようになっても、この3番をぜひ聴いてみたいとは思わなかった。(存在すら忘れていた。)ところが、東京出張した際にどういう訳か輸入盤の新品を買ってしまった。 国内盤もカタログにちゃんと載っていたのに、そしてそれなら職場の生協で15%引きで買えたのに。たしか新宿のストアでムラヴィンスキーの9番と一緒に買ったと記憶している。そちらは注文したものの在庫切れで入荷できなかったので、見つけた現物を押さえたのは当然(&大正解)だったのだが・・・・・なぜあんな衝動買いをしたのかは今もって謎である。
 さて、家に帰って聴いてみたらえらく退屈に感じた。その頃は既に「これぞまさに究極の演奏」というべきヴァント&NDR盤を所有していたが、それと比べたらノヴァークの第2稿を使用した当盤からは盛り上がりが感じられなかったし、演奏自体もゆるくてぬるくてどうしようもないと思った。中でもスケルツォが良くない。主部がニ短調(ミファミレミファミファミレミファミ)で劇的に終わる第3稿と比べて、ニ長調(ドレドシドレドレドシドレド)で終わる第2稿はどうしても詰めが甘く感じられた。例のコーダはさらに良くない。「チャッチャチャッチャ、チャカチャカチャカチャカチャカチャカ」になって、あの晩に短波ラジオで聴いたことをようやく思い出したのだが、そのリズムがいつまでも続くうちにだんだんとイライラが募り、その後の「チャッチャチャッチャ、チャッチャチャッチャ、チャッチャチャッチャ、チャッチャチャッチャ」の繰り返しで「ふざけるのもいい加減にしろ!」と怒鳴りたくなった。今でも私にはあのコーダがおちゃらけにしか聞こえない。(吉本新喜劇の登場テーマに使ったらどうだろう?)で、キライである。ただし、演奏時間が60分を超える当盤はノヴァーク第2稿を使用したものとしても少々遅い部類に入るため、あのコーダが「冗長」あるいは文字通り「蛇足」と感じられてしまったということはある。全体的にスッキリした感じのギーレン盤ではさほど抵抗はなかった。ところで版に極めて疎い私は、同じ第2稿でもスケルツォにコーダが付くのがノヴァーク版、付かないのがエーザー版という全くいい加減な知識しか持ち合わせていない。それで本当に正しいのか、あるいは他に細かな違いがあるのかについては全く知らない。何にせよ、当盤によって「3番の第2稿はつまらない」というイメージが形作られることになったのだが、それにひびを入れたのがクーベリックの「鐘」盤(当該ページに書くつもりだが、彼のCBS正規盤が最初に聴いた3番演奏)で、跡形もないまでに叩き壊してくれたのがマタチッチ&フィルハーモニア盤である。
 ところで、浅岡のサイトによると、コンセルトヘボウ管との旧録音は「朝比奈のジャンジャン盤が出るまで長い間唯一のエーザー版使用演奏」ということである。このVPOとの再録音も、コーダ入りスケルツォ使用という点では朝比奈&大フィル84年盤(VICTORの全集録音)の次に古いのではないだろうか。 彼は見かけによらず新しもの好きなのか、それとも朝比奈に対抗意識を持っていたのか? 謎である。
 さて、演奏についてだが、実は書くことが思い付かない。要は5番ページで述べた感想とあまり変わらないということである。つまり彼のような地味な指揮者が地味な第2稿を振ると、あまりにもピッタリとはまりすぎるために聴き手は退屈と感じてしまうのかもしれない。(第2楽章のべたーっとした響きにはウンザリしてしまった。)第3稿あるいは改訂版を使用していたら、あるいはもうちょっと聴き応えのあるものに仕上がっていたのではないかと少々残念に思っている。9番81年盤のように独自の考えで打楽器を入れても良かったのでは、などと無責任なことも言ってみる。

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