交響曲第7番ホ長調
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮フィルハーモニア管弦楽団
82/07/19
IMG Artists BBCL 4123-2

 私が所有する3種のジュリーニの7番中では最も早い時期の録音であり、4つの楽章の演奏時間も最短である。(終楽章のトラックタイムはBPO盤よりも長いが、それは収録されている拍手によるもので、正味の演奏時間は当盤の方が15秒ほど短い。)そのせいもあって速い楽章は躍動感に満ち溢れている。音質も極めて良好であり、BPO盤とVPO盤の「えーとこ取り」をしたという感じか。1枚だけ買うとすれば文句なしに当盤だろう。(DG国内盤には日本語解説書が読めるというメリットがある。ただし、再発廉価盤は曲目解説だけで真新しさは全くないが・・・・・)
 第1楽章はまさにノリノリで、例の不可解なラストスパートさえなければ当盤を7番のトップに置いても良かったほどである。まさに痛恨の極みなり。アダージョも抜けの良い録音のお陰で必要以上に重苦しくならないのが良い。HMV通販の紹介ページの見出し「絶世絶美のアダージョ!」という見出しは本当である。ただし、本文中の「この美しくも哀しい情感に身も心もゆだねてしまったかのようなアダージョの美的音響は、他に例を思い浮かべることができません」には少々疑問を感じた。演奏時間は20分そこそこで決して遅い訳ではないのだから。むしろ、比較的速い基本テンポを採りながら雄大さを余すところなく実現した指揮者の手腕に驚嘆すべきであろう。(そして、ノロノロテンポでなければスケール感や荘厳さが表現できないと錯覚している凡庸指揮者は手本とすべきであろう。)ところで、浅岡弘和は自身のサイトの「交響曲第八番にみるブルックナーの本質」というページにて「アダージョのクライマックスは音量的には243小節だが、精神的な頂点は天国的な美しさが遂に強い悲しみに変わる253小節なのである」と書いていた。曲こそ違うけれども、当盤のアダージョ17分30秒〜の力強いブラスの咆吼を聴いて私はそれを思い起こさずにはいられなかった。嬰ハ短調に戻ってから楽章を閉じるまでの悲しさと美しさは本当に比類がない。
 後半2楽章も気合い入れまくりで、終演直後の大ブラヴォーにも納得がいく素晴らしい出来である。それにしても、ロイヤル・アルヴァート・ホールに詰めかけた満場の聴衆には毎度のことながら感心させられる。プロムスの常で演奏終了と同時にブラヴォーが発せられるけれども、それが見事なまでに揃っているため全く気に障らない。目立ちたがり野郎によるフライング・アホ・ブラヴォー(FAB)とは全く次元を異にしている。(そういえばBPO盤にも実に間の抜けたFABが入っており、かなり興を削がれる。)ノリの良さとマナーの良さを両立させているのが立派である。(羽目を外すのはラスト・ナイトだけなのかもしれない。)私もいつの日か、こういう上質の聴衆に混じってコンサートを聴いてみたいものだ。ちなみに90年代前半のある年のことであるが、夏にロンドンで作物学関係の国際学会が開催されることを知り、行けば(ラスト・ナイトはもちろん無理でも)プロムスを聴けるチャンスがあるため参加を検討したことがある。出不精もあって結局は取りやめることになったのだが。とはいえ、あの時もし渡航していれば永久に献血できないこと(1980〜1996年に英国に1日以上滞在したらアウト)になってしまったから、結果的にはそれで良かったのである。実は今日も16時に予約を入れているのだ。

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