交響曲第5番変ロ長調
ミヒャエル・ギーレン指揮南西ドイツ放送交響楽団
89/11〜12
Intercord INT 860.907

 浅岡弘和のサイトには「『第五』の冒頭など低弦のピチカートがコントラバスだけでチェロは落とすという変わった解釈が聴かれる」とあるが、よくこんなの聞き分けたなと感心した。普通に再生していたのでは並の演奏と全然区別が付かない。ヘッドフォンで聴くと確かに刻みが地味なような気がする。が、結局それだけである。実演ではそれなりの効果を発揮したのかもしれないが・・・・
 トータル70分ちょっとで、ギーレンの他の奇数番号(37番)と同じく快速演奏である。が、同様の演奏時間の他盤(インバルや旧東独系指揮者)とは一味違うように聞こえた。もちろん第1楽章から飛ばすのであるが、先にも触れたピチカート(これはチェロも入ってる?)が強烈に自己主張している。そこに指揮者の強靱な意志のようなものを感じてしまった。この楽章のピークも(14分09秒)に至るまでの煽り方もかなり執拗である。単に明晰さだけを極めただけの演奏に終わっていないのが偉い。ただし、コーダ(17分10秒〜)に入っても急加速することなくインテンポのまま締め括るなど、この指揮者の造形感覚が確かであることは随所で窺える。
 約19分の第1楽章に続くものとして、18分ちょっとの第2楽章は少々遅く感じる。(ちなみに、4つの楽章のトラックタイムが当盤と結構似ているのはマタチッチ&チェコ・フィル盤である。ついでながら、ショルティはアダージョの方が1分長い。やっぱヘンだわ、このシト。)ところが、ここが全曲中で最も素晴らしいのである。ブロック内でのテンポいじりは行わず、変更はあくまでブロックの変わり目に限定しているが、それが実にスムーズに行われている。指揮者によるテンポの前後関係の捉え方が正しいからに他ならない。このような整然とした美しさは「部分こだわり型」指揮者では絶対に表現できない。ヒンヤリとした響きがこのアダージョにこんなにもピッタリ合うとは思ってもみなかった。
 スケルツォは全く問題はない。終楽章も冒頭部分の力強さは良かったけれども、3分08秒からのせせこましい進行に興醒めしてしまった。もっとも、曲想が変わってからテンポを上げているので方法としては誤っていないし、もちろん指揮者にしてみればそれで辻褄が合っているのだろう。単に私の好みではないというだけだ。全曲を快速演奏で押し通していることを考えれば、楽章間のバランスという点からも文句を付けるべきではない。コーダを明晰そのものの響きで聴くことができるのは何といってもありがたい。

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