交響曲第6番イ長調
クリストフ・エッシェンバッハ指揮ヒューストン交響楽団
99/04/10〜12
KOCH 3-7484-2 H1

 鈴木淳史が「クラシックB級グルメ読本」にて2番ヒューストン響盤を「70分を超すドンジャカ&ヌメヌメ演奏」と評していた。興味を抱いたが、もちろん敢えてこの曲のディスクを買おうという気にはならない。スタイルはそんなに変わらないはずと予想し、代わって同コンビによる6番を狙っていた。アマゾン・マーケットプレイスで発見しカートには入れておいたが、購入手続きに進むべきか迷っていた。が、アストロズが初のワールドシリーズ出場を決めた翌日朝にご祝儀ということで注文を確定させた。(ここでも「なんやそれ?」である。)言うまでもないが、当盤のオケとアストロズの本拠地は同じである。ヒューストンといえば真っ先に米連邦航空宇宙局、ジョンソン宇宙センター、スペースシャトルなど宇宙開発のイメージ(それにしては日本語で書くといかにも勢い良く打ち上げたロケットが落っこちそうな地名だ)を思い浮かべる人が多いだろうが、私にとってはNFLのオイラーズである。(ついでながら、何の略かは知らないが「NASA」といえばパラグアイの首都アスンシオンと西部チャコ地方のメノナイト移住地フィラデルフィアとを結ぶ長距離夜行バスを運行していた会社としての思い出が強い。月が出ていれば別だが人口希薄なチャコの高速道路を走っている間、辺りはまさに漆黒の闇である。ところが午前4時を過ぎると右手前方にアスンシオン市街の灯りがほんのりと見えてくる。その時に大袈裟ではないが「まだ生きている」と自己確認することが何度かあった。この際だから帰国途中に寄ったチリの思い出話も書いてしまう。内陸国パラグアイ、それも乾燥地帯で常時流れている川が全くない地域に2年以上住んでいたので、私が大量の水を見るのは首都との往復でパラグアイ河を渡る時だけだった。ましてや海というものはすっかり忘れてしまっていた。休暇を取ってアルゼンチンとボリビアを旅した際にも、ブエノスアイレスでは港付近を少し歩いただけだったし、チチカカ湖はペルーで日系人が殺害された直後だったので絶対行くなと釘を刺されていた。チリの首都サンチャゴは内陸部にある。バスで訪れたラ・セレーナあるいはビーニャ・デル・マールのどちらかだったと思うが、砂浜に足を踏み入れた時のことである。眼前に広がった太平洋をボーッと眺めていたら突如「生きて帰れるんだ」いう言葉が頭に浮かんだ。そして押し寄せる波を手で受け止めている内に独りでに涙が出た。これも冗談ではない。任期を全うしてサンチャゴ行きの飛行機に乗った時にはそのような感慨は一切湧いてこなかったし、その前に空港に見送りに来てくれた仲間達との別れも結構クールさを保ったままに済ませることができていた。やはり大自然の力は偉大だ。例によって長くなったのでここで改段落する。)
 さて、なぜオイラーズかといえば、既に別ページに書いたように私はオークランド・レイダーズのファンだったが、クォーターバックのケン・ステブラーがトレードに出されたのがこのチームだったのである。(故障してジム・プランケットにスターターの座を奪われ、その年にレイダーズがスーパーボウルを(ワイルドカードからの出場では初めて)制覇してしまったからお荷物扱いされたのである。つまり01/02年シーズンのペイトリオッツ、つまりブレイディとブレッドソー(現カウボーイズ)のケースと一緒である。ちなみに、私は常勝チームというのはあんまり好きではなく、日本のプロ野球でも弱い時こそライオンズやホークスを応援していたが、勝ってばかりになると次第に関心を失ってしまった。とはいえ楽天ゴールデンイーグルスのファンには多分ならないと思う。ゴールデンゴールズは結構好きだが・・・・戻って、ペイトリオッツとブレイディはそんなに嫌いではない。なぜだろう? あのシーズンのプレーオフではインチキ判定=ファンブル→ターンノーバーのはずがチャレンジでパス・インコンプリートに覆ったためにレイダーズが土壇場で逆転負けを喰らったというのに・・・・そういえば、ニューイングランドで行われるプレーオフは大雪の日が少なくない。いくらレギュラーシーズンの成績上位チームに与えられるアドバンテージとはいえ、あんな中で試合をやるというのはちょっとズルい。寒さに慣れていないビジターチームは圧倒的不利である。)彼の左腕から繰り出される豪快なパスに私は魅了されていた。(解説の後藤完夫は「切れ味のあるカミソリというよりは鉈のようにズドーンと来る感じ」と評していたが言い得て妙と思った。)81年の第1戦(vs LAラムズ)、オイラーズはステブラーの活躍で序盤の劣勢を跳ね返して逆転。第4クォーター終盤に追いつかれたが、その直後のリターンTDで勝ってしまった。(結局オイラーズはその年も低迷するのだが、リターンチームの成績だけはダントツだった。)あれは「マイ・ベスト・ゲーム」の1つである。とはいえ私にとってオイラーズといえばライオンズ(デトロイト)と並んで万年弱小チームというイメージしかない。(80年代頭にはどうしようもなく弱かったペイトリオッツ、コルツ、ビルズ、ジェッツ等がその後力を付けていったのとは対照的である。ビルズやジェッツは逆戻りしてしまった感があるが・・・・ところで、ボルティモアからインディアナポリスに移って強豪チームへと変貌したコルツは05/06年シーズンも圧倒的強さを見せつけ、開幕から13戦全勝で突っ走った。ひょっとするとひょっとするかも、と期待を抱かせたが14戦目のチーフス戦に敗れ、惜しくも72年のドルフィンズ以来というパーフェクトシーズンはならなかった。そしてプレーオフではシード最下位のスティーラーズに敗れ、スーパーボウルには進めなかったが、QBマニングは敗戦後に「シーズン終盤に一度崩れたチームは立て直しがきかなかった」と語った。)冒頭で述べたMLBのアストロズとNBAのロケッツは強豪へと生まれ変わったというのに、テキサンズになってからも状況は似たり寄ったりで、今シーズンも着実に黒星を積み重ね、結局コルツとは逆の2勝14敗という惨憺たる成績でシーズンを終えた。あーあ。「こんな純度100%の脱線話を読まされる方こそ『あーあ』だっつーの」という声が聞こえてきそうなのでもう止める。(2008年1月追記:ヒューストン・テキサンズは2002年のNFL拡張時に加わった新興チームであり、テネシー州ナッシュビルに移転し「テネシー・タイタンズ」と名を改めた旧オイラーズとは全くの別団体であると遅ればせながら知った。情けない。)
 さて、いろんな評論家にあーだこーだ言われているUSAのオケだから、「極めて人工的(もしくは無機的)な演奏でブルックナーらしい深みに欠ける」などと切り捨ててしまうことも可能かもしれない。が、ショルティ盤をダントツに推していることからも既にお察しのように、私はこういう演奏は結構好きである。完成度は88年盤をはるかに上回っている。第1楽章の終わりで響きが混濁したりしない。が、そうなると下手にこぢんまりしているのが玉に瑕といえようか。機能的にはシカゴ響にも引けを取らないのかもしれないが、ショルティ盤のようなリズム崩しや躁病ティンパニは聞かれない。シュレースヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭ライヴの踏み外したような異様な盛り上がりもない。要は狂騒さが全くないため物足りなさを覚えてしまうことに尽きる。またスッキリした音質は悪くないが、第2楽章は旧盤よりトラックタイムが長いにもかかわらず淡々と過ぎてしまう感じだ。なので名演として上位に置くことは吝かでないが、最高ランクとまでは評価することはできなかった。もちろん常識的あるいは模範的な演奏をお望みの方には当盤こそが打ってつけである。(長い前振りのため評執筆の前にエネルギーを使い果たしてしまった。)

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