交響曲第8番ハ短調
セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
85/04/04
METEOR MCD-036〜7

 SDRとの演奏も出ているのに、なぜか「チェリのブル8の紫」「ミーティアのチェリのブル8」というのは当盤のことを指すようである。なお、「緑」レーベルからもこの演奏はAUD-2505/6としてリリースされているようである。「リスボン・ライブ」と間違えて高額で落札すると悲惨であるから注意されたし。と言っている私が実はオークションでは痛い思いをしている。当盤と間違えてSDR盤(MCD-050〜51)を再度落札してしまったのである。過去の落札価格よりも安いので「おっかしいなあ」と思っていたが、終了後に気が付いた。入札取り消しは出品者に迷惑をかけるし、マイナスの評価を付けられる恐れもあるので、仕方なくそのまま購入して後に無償で人に譲った。結果的にSDR盤は全然安くなかったことになる。このようなタブリ買いはこれまで何度か経験している。最初はヴァントの8&9リューベック盤で、カタログの番号を間違えて注文してしまった(その下にあった8番93年盤の番号を誤記入)。2度目はクレンペラー&VPOの5番。HMVに注文したものの全然入荷しないので、もう来んだろうと思って落札した直後に再プレスされたとかで入荷してしまった。そして当盤が3度目。セット物を買ったために重複する場合はもとより覚悟の上だからいいのだが、避けられたはずのダブリン愚はやはりショックである。とはいえ今後も後を絶たないだろう。(ネット掲示板によると、買ってから封も切らずに積んでおくような人にとってはダブり買いも日常茶飯事らしいが、私はそこまで大量に買い込んだりしないので少しはマシだろうとは思う。)
 前置きの字数に見合うだけの本文が書けるか心配だが、とりあえず続けてみる。これは74年のSDR盤から11年後の演奏であるが、トータルタイムが85分台から96分台へと11分長くなっているのがやはり注目される。(実際には後半2楽章を収録したDISC2の延びが大部分で、55分15秒→63分22秒と8分以上も長い。ただし、当盤の4楽章のトラックタイムは31分45秒と表記されているものの正味の演奏時間は30分05秒で残りは拍手である。)1分/年という延長率(減速率)は93年のEMI正規盤(93年)まで続き、翌94年の「リスボン・ライブ」はやや速くなっている。(ただし両盤の前後関係には疑問もある。) ここでまたまた脱線であるが、人間は齢を重ねるにつれて時の経つのを速く感じるという。それは人生がルーティン化して次第に無自覚になるだけでなく、体内時計そのものの進み方が遅くなることも原因だと言われる。(だから、「エーッ、もうこんなに経っちゃったの?」ということになるのだ。)確かに私の体内時計が刻む1秒よりもデジタル腕時計の秒数の変化の方を速く感じることは多々ある。(ところが、畑で潅水時間を体内時計によって計ると、1分散水したつもりが実は55秒しか経っていないというようなことがよくある。これは明らかに過剰反応である。)が、私のことはどうでもいい。5番SDR盤のページに書いたが、やはりチェリは8番については最晩年まで解釈を極めようとしたのではないかと思う。そして、スローテンポ化はその結果として表面に出た現象に過ぎないのかもしれない。単なる老化(に伴う弛緩)現象なら5番も90分を超えて(あるいは100分に届いて)いたはずだから。
 ということで、当盤は「過渡期」の演奏といえるのかもしれない。ヴァントの場合、「過渡期」のブルックナーを好んで聴きたいとは思わない。(92〜93年の3789番やBPOとの458番があまりにも素晴らしいから。) これに対し、SDR時代(70年代〜80年代初頭)とMPO後期(80年代終わり〜)の間に位置するMPO前期をチェリの「過渡期」と定義するならば、その頃の演奏はブルックナーに限らずバランスが良い(4番映像のページで述べたように両時代の優れた点を兼ね備えている)という理由でネット評も比較的高いようであるし私も好きである。ただし、当盤は金管の吹き損じが修正されずそのままになっている等、いかにもライヴの海賊盤らしいといえばそれまでだが、完成度がやや低いのは興を削がれる。また録音も少々痩せている感じでMPO特有の艶にも欠けている。(正規盤と比べても音は痩せているが、鋭さでは上回っている。)後半2楽章の演奏時間が若干短いにもかかわらず、緊迫感が「リスボン・ライヴ」ほどではないのも、あるいは「随伴現象」不足によるものかもしれない。オークションでの入札価格が最低でも4000円台(時に6000円台、あるいはそれ以上)まで高騰する「リスボン・ライヴ」に対し、当盤の落札価格の相場が2000円台であることもネット上での評価を反映しているといえる。

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