交響曲第7番ホ長調
セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
94/09/10
EMI 7243 5 56695 2

 89年盤ページ追記に書いた通り、演奏、録音ともネット評は最悪に近いものだったため恐る恐る当盤を聴いたのだが、幸いにも私にはそれほど酷くは聞こえなかった。予期せぬ買い物であっても金を払った以上は元を取らねば、と集中して聴いたせいもあるだろう。(要は私の貧乏性のお陰か?)洋泉社新書yシリーズに鈴木が書いていることに散々文句を言っている私だが、確かに「BR」マーク入りの当盤の音質は悪くない。(私が所有するEMI正規盤の中では3番と並んで音がよい。やはりバイエルン放送の音源だから、それとも輸入盤は下手に音をいじっていないから?)少なくとも「ただの遅いだけのマヌケな演奏」には聞こえなかった。とはいえ、わざわざ音の悪いディスクを取り上げて録音評(不平不満)に終始し、演奏評の執筆を放棄した鈴木を擁護しようという気は更々ない。
 さて、同じMPOを振った89年盤と比較すると、当盤の方が偶数楽章でトラックタイムが長くなっている。89年盤のディスク評には「メリハリを付けているので聴いていてダレない」などと書いたが、当盤のアダージョでも長調のところで基本テンポからの逸脱があり、それが旧盤よりも顕著になっていると感じた。(基本テンポの差はあまり感じない。)例えば12分20秒〜のハ長調の部分では、1つ1つのフレーズをもの凄く丁寧に演奏しているため止まる寸前に聞こえるが、音質が良いので聴いている側の緊張感が持続する。(この点でBPO盤は厳しい。)また、全体的に旧盤より枯れているような印象も受ける。ただし、「痩せている」とは聞こえないのは音質と曲の性格に救われているためであろう。第4楽章も逸脱が激しい。(89年盤のトラックタイム13分57秒には拍手の約30秒が含まれているので、実際には新盤の方が1分長い。楽章全体の時間を考えると、2楽章よりも新旧両盤の差が拡大したのは明らかである。)冒頭の軽快なテンポからは、なぜこの楽章が14分半も要するのか解らない。ところが曲想の変わり目で思い切ってテンポを落とす。その後もコロコロとテンポを変えるが、すぐには元の快速テンポには戻さない。(そうやったら思い付きで変えているような浅はかな印象を与えてしまう。)快速テンポが戻ってくるのは終盤に入ってからである。あるいは楽章内でテンポにシンメトリー構造を与えようとしたのだろうか。よく解らないが、とにかく深謀深慮に基づいていることは確かだ。指揮者がこの楽章をかなり重要なものとして位置づけていることが、当盤を聴いて初めて理解できた。
 などといろいろ書いたが、当盤の最大の収穫は比較試聴した旧盤の良さを改めて発見できたことである。繊細な美しさでは当盤に軍配が上がるかもしれないが、89年盤はそれよりもはるかにエネルギッシュであり、指揮者の気力充実が感じられる。よって、私としては濃密演奏の旧盤を採りたい。とはいえ当盤も決して無価値ではなく、これからも時に聴きたくなることは間違いないと思う。

おまけ
 併録の「テ・デウム」はたいへん美しい演奏である。録音年は82年とあるが、やはりこの頃のチェリ&MPOの演奏は私には一番ピッタリくるのかもしれない。(90年代だったら35分ぐらいかかる?)そういえば、NHK-BSで放映されたミサ曲3番も美しかった。ただしリハーサル風景と交互だったので、演奏会の模様を全曲通しで聴きたいものだ。これらの曲はヨッフム&バイエルン放送響のDG4枚組を持っているが、それらに力強さはあってもチェリのようなきめ細かさがないため、美しさではだいぶ劣る。ところで、間もなくチェリ&MPOによる宗教曲4種(フォーレのレクイエムやバッハのミサ曲など)を含むBOXが発売されるようだが、どうしようか?(高価格のため現時点では見送り)

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